テンカワさんの日常は何故かナデシコに乗っていた頃とあまり変わらない気がするのは気のせいでしょうか?
前後左右を女性に囲まれて、周りから見れば羨ましがられるかもしれませんが、本人にしてみれば良い迷惑なのかもしれません。
とはいえ、騒がしくも仲良きことは美しきかな
ラピスがアキさん恋しさにテンカワさんに女装させていても良しとしましょう。
さてさて今回の主人公は本編ラスト辺りでヒロインを張ったあの人のお話です(笑)
ああ、これって黒プリ本編とはひょっとしたら無関係かもしれませんのでそのつもりで〜
彼女はせっぱ詰まっていた。
何せ急がなければいけない。
既に手遅れに近いほど遅れている。
遅れた理由は色々ある。
火星での騒動の後、ゴタゴタがあってそれどころではなかったのも一つだ。
その後、木連の戦艦に送ってもらって地球に凱旋したとき、政府関係者の冷たい視線と民衆の暖かい声援があったりもした。
そんな中で最終的にナデシコ長屋に抑留するまでおちおち出歩くことも出来なかったという事実もある。
けれど、そんなことは所詮は言い訳である。
条件さえ揃えば一瞬で終わることである。
だが、ここまでズルズル引き延ばしてしまった。
こうなってしまった以上、実現は非常に難しい。
火星のあの場面で行っていれば特に問題もなかった。
そういう雰囲気だったから。
けれどこれだけ引き延ばしてしまった以上、それは通用しない。
一度沈静化してしまったものを再び行おうとする場合、かなりの労力がいる。
緻密な計算を再度行う・・・
ダメだ、どれも失敗する。
一度崩れた状態を元に戻すことは至難の業だ。
何回も何回もコンピュータ上でシミュレーションを行う。
条件を設定しては計算を行い、結果を見ては破棄する。
その繰り返しだった。
けれどそのいずれの条件も満足出来るものではなかった。
かつてこれほど難しい問題があったであろうか?
相転移エンジンを作った・・・正確には発掘したエンジンを動かすようにしただけであろうが、その時だってここまで苦心したことはなかった。
彼女にとっては大概の問題は解決可能な範疇である。
それこそ火星で八岐大蛇と対峙したときですら、これほど難しくはなかった。
つまり、彼女は人生最大の困難に直面しているのである。
「どうしよう・・・どうしたら良いの・・・」
彼女は広げた資料の前で思い悩む。
仕方のないことだ。
それは彼女の専門分野ではない。
いや、むしろ苦手な分野であると言っても良い。
「神様、どうして私にこんな試練を与えるのですか?」
彼女・・・つまりイネス・フレサンジュは運命の悲哀を呪った。
「あれから数ヶ月も経って、どの面を下げて『お兄ちゃん、もう一度抱きしめて♪』と言えばいいの・・・」
イネスは部屋中に並べたピンクハウス系の洋服のカタログを眺めて泣き崩れるのであった(笑)
3、2、1、ドカ〜〜ン!
なぜなにナデシコ♪
これを読んでいる読者さんの為にイネスさんには少し一時停止してもらって、解説用の別ウインドウが開いた。そこに移っているのは3Dでデフォルメされたなぜなにナデシコルックのルリにラピスであった。
ちなみに彼女達がご当人達と同一人物かは定かでありません(笑)
「皆さん、おはよう、こんにちは、こんばんわ。
お姉さん役のホシノ・ルリと」
「うさぎのラピス。
で、ねぇねぇお姉さん、イネスは何で悩んでいるの?」
「それはいわゆる一つの機会を逸したってやつですね」
「機会を逸した?」
「そう。火星でアイちゃんは20年前にボソンジャンプ。
それから彼女はイネスさんとして人生を送りました。
けれどこの前の火星での戦いで見事アイちゃんであった頃の記憶を取り戻します。
『もう一度逢えたら抱きしめて♪』なんてウルウルした目をしてアキトさんと見つめ合いました。
ああ、それなのにそれなのに〜」
「それなのに?」
不思議そうに首を傾げるうさぎのラピスにお姉さんルリはビシッと指を指す。
「火星で抱きしめてもらえなかった以上、関係者の『アイちゃん、良かったね(涙)』っていう雰囲気はとっくの昔に消え去り、もう一度抱きしめてもらおうとしたらかなり大きなイベントがないとアキトさんもイネスさん自身も照れくさくて出来なくなりつつあります」
「ま、確かに王様ゲームで1番が2番にキス♪とか言われてその気になったら時間切れで、翌日素面なのにその続きをしろと言われているようなものだし」
「いや、その例えもどんなものかと・・・
まぁそれもあるんですが、本人はもっと重要なことで悩んでいたりします」
「どんな?」
「本人の心の声を聞いてみましょう」
ルリがスイッチを押すと、本人の心の声が聞こえてきた。
『もう一度抱きしめてもらうとしたら、やっぱりアイちゃんよね・・・
そう、イネス・フレサンジュというキャラクターで「お兄ちゃん、抱きしめて♪」って出来ないわ、断じて!
けれど、アイちゃんで行くとしても、今まで私はアイちゃんらしい洋服も着たことないし、仕草や口調だってイネス・フレサンジュのままよ?
そんな私がどんな格好をして「お兄ちゃん、抱きしめて♪」って言えばいいの?
いっそここは戦術的作戦を練るために一時退却するとか・・・
ダメダメ!この機を逃したら恥ずかしくて二度と「お兄ちゃん、抱きしめて♪」なんて言えなくなる!
せめて三十路に入る前に言わなければ・・・』
「とまぁ、こんな事を考えていたりします」
「無様ね」
「でもまぁ本人は必死です。さてさてこれからどんな珍事件が繰り広げられることやら」
「では続きをどうぞ」
スーパーインポーズしていた二人の画面は消え去り、イネスの動作がポーズ解除された。
「まずは格好よね。でも私の持っている服と言えば・・・」
イネスは自分の手持ちの洋服を並べてみた。
ナデシコの制服
女医さん用の白衣
カワサキで来ていたレディースのスーツ
極めつけはボンテージ風のクイーンイネスの衣装(笑)
「どう考えてもアイちゃんじゃない〜」
イネスは両手を床について脱力した。
アイちゃんといえば・・・
『魔女っ子メグ』とか、
『秘密のアッコちゃん』とか、
『コメットさん』とか、
「そんな感じのはずなのに・・・」
イネスさん、それってリメイク版の事ですか?(←デフォルメ・ルリ)
「ううん、一番最初の奴」
イネスさん、古すぎです。せめて・・・
『魔女っ子プリンセス・ナチュラルライチ♪』とか、
『魔法少女プリティーサミー♪』とか、
『カードキャプチャーさくら、レリーズ♪』とか、
とか言えませんか?(←デフォルメ・ルリ)
「うるさいわね!担当声優がそのぐらいの年代なんだから仕方がないでしょう!」
まぁそんなモノクロだった頃の話題はともかく・・・
「ちゃんとカラーの奴もあるわよ!」
と、お約束のツッコミはともかく、今のイネスには『お兄ちゃん、抱きしめて♪』と自力で出来るだけの度胸も知識もなかった。
「こうなったら恥を忍んで誰かを頼るしかないわね・・・」
イネスは意を決するのであった。
まずは形から入ろう、そう思ってイネスが頼んだ講師とは・・・
「この通り、お願いするわ」
「・・・」
「ダメ?」
「・・・」
「ダメなの?どうなの?ハッキリして」
「・・・ククク」
「く?」
「・・・クククククク・・・アハハハハハハハ♪」
その女性ハルカ・ミナトは堰を切ったかのように畳をどんどん叩いて大笑いをした。
お腹がよじれるとはこのことだ。
彼女は目から涙を流しながら体をくの字にして思いっきり笑った。
当然イネスは黙ってはいない。
「な、何がおかしいのよ!」
「だって、イネスさんが・・・アハハハ♪
想像しただけで・・・アハハハ♪」
「い、良いじゃない!これでも半分はアイちゃんが混じってるんだから!」
「でも、可愛い服を着て『はーい、お兄ちゃん、アイちゃんで〜す♪』なんて言う場面を想像したら・・・アハハハ♪我慢できなくて〜〜」
ミナトは抱腹絶倒しながら畳の上を転がりまわった。
よほどツボにハマったらしい。
だからイネスの様子にも気が付かなかった。
「アハハハ♪私を・・・
アハハハ♪笑い死に・・・
アハハハ♪させないで〜♪」
なおも笑い続けるミナトの頭上でゴゴゴーーーという轟音が鳴り響いていた。
「そんなにおかしいかしら?」
「おかしいも何も・・・アハハハ♪
笑い死にしそう〜♪」
「へぇ〜じゃ、本当に天国にでも行ってみる?」
「え?」
ようやくミナトはイネスの声質が変わっていることに気づく。
漂ってくる雰囲気に冷や汗を流し、そーっと顔を見上げると・・・
そこには怒髪天をついたイネスがメスを構えて立っていた。
『しばらくお待ち下さい』のテロップがしばらく流れる
「ごめんなさ〜い♪真面目にやるから♪」
「わかればいいのよ」
何があったかは秘密だ(笑)
とはいえ、やるからには手を抜かないのがミナトである。
「まずは幼稚園のスモック風♪」
黄色い帽子にモスグリーンのスモッグ姿のイネスさん・・・
かなり恥ずかしそう
「こ、これは・・・年齢戻し過ぎよ!!!」
「そう?アイちゃんってこれぐらいの年じゃなかった?」
「幼稚園ぐらい卒業してるわよ!」
「あらそう?んじゃ・・・」
ミナトさんは自分のコレクションの中からごそごそと次の衣装を引っ張り出す。
「それじゃ赤いランドセルの小学生ルック♪」
今度は半袖に胸にポッケの付いたミニスカート、足は折り目正しいショートソックスに赤い靴。もちろん髪は三つ編み。
極めつけは赤いランドセルだった。
「い、いくらアイちゃんから入るからって、これは・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ま、また笑うの!?」
「・・・い、いや・・・笑わないわよ・・・・」
ウソだ。ミナトは目に涙を溜めて笑いを堪えていた。
っていうか、三十路に手をかけようかというこの年で小学生の姿はないだろう(笑)
「あなたねぇ!真剣にやってるの!!!」
「真剣にやってるわよ。それじゃ、次の格好に行ってみよう♪」
「お願いだから普通のにしてね・・・」
黒いカーテンがイネスの前を覆い、そして再び開く。今度の姿は・・・
「じゃ〜ん♪赤いスイートピー風、聖子ちゃんルック」
もちろん伝説のぶりっこ(死語)アイドル聖子ちゃんが着ていたレースフリフリのドレスである。
「に、似合う?」
「う〜ん、三つ編みをほどくと・・・あら良いんじゃない?」
「そ、そう?(テレ)」
「そう、長い髪が三つ編みほどいたウェーブでなんかこう・・・」
「ほ、本当ね?」
鏡を見てまんざらでもないイネス。
確かに白いドレスにウェービーな長い金髪は似合っていた。
本人はスカートをフリフリしながらしばし自らの姿に見惚れていたが・・・
「でも若作りしているみたい」
「ヒキィ!」
ミナトの何気ない一言がイネスのこめかみ辺りの血管を2、3本ブチ切った。
『しばらくお待ち下さい』のテロップがしばらく流れる
「ごめんなさ〜い♪今度こそ真面目にやるから♪」
「ゼェゼェゼェ・・・まったく、頼むわよ・・・」
もちろん今回も何があったかは秘密だ(笑)
「でもいまいちしっくりこないのよねぇ」
「それってどういう意味?」
「う〜ん、こうなったら!」
ミナトも自らのコレクションを総動員した。
こうなれば下手な鉄砲数撃ちゃ当たるである。
「まずは定番メイド服!しかも奥ゆかしいエマの世界へようこそ♪」
「エマって言われても普通の人にはそれがマイナーな漫画だってわからないと思うけど・・・」
「もちろん、眼鏡はお約束よ♪」
「ちょっと〜」
「ええい!ここは奮発!猫耳に尻尾だ〜♪」
「うぇえぇぇぇぇ!?」
メイドさん、眼鏡っ子、猫耳のコンボ攻撃!
「で、どうなの?」
「・・・イメクラみたい(汗)」
「#%&@*?!!!」(←すっげぇ怒ってます)
「じょ、冗談よ〜次行きましょう♪」
またまた黒いカーテンがイネスを覆い、次の洋服に早替えする。
「スクール水着♪しかもスイミングキャップ着用♪
胸には『1年チューリップ組アイちゃん』のゼッケン付き♪」
「い、いやだ〜恥ずかしい・・・」
「ん・・・」
「で、どうなの?」
「失敗したわ。これではただのワンピース。やっぱりスクール水着はペッタンでないと・・・」
「あ、あなたも変なところにこだわりを持ってるのねぇ・・・」
今一つミナトの趣味を計りかねるイネスであった。
それでもめげないミナトは次の衣装を用意する。
「ゴスロリ風ワンピース!」
「で、どうなの?」
「・・・」(←視線を逸らす)
「なんとか言いなさいよ!」
「魔法の妖精ペルシャ風トラジマ!」
「な、なによ、これ体に巻き付けてるだけじゃないの〜」
「・・・いや、これはこれでセクシーなんだけど、アイちゃんってコンセプトから外れているわね・・・」
「あ、あのねぇ・・・」
「セーラー服美少女戦士!」
「ば、馬鹿!何て格好させるの!」
「・・・ゴメン、これだとピンクサファイヤになっちゃうわ」
「セーラームーンじゃなくて踊る大捜査線かい!!!」
「おジャ魔女どれみちゃん♪」
「な!何を考えてるのよ!」
「・・・死ぬほど似合わないわねぇ」
「あんたがさせておいて言うな!
っていうか、何でこんな衣装を持っているのよ!!!」
こうなれば自棄だ(笑)
「ええい、プリティーサミー!」
「あのねぇ!」
「イマイチか・・・じゃピクシーミサ!」
「私は悪役かい!」
「ならばロビンちゃん!」
「ってロボコンかい!」
「制服シリーズ、アンミラ!」
「アイちゃんってコンセプトはどうした!」
「ならセーラー服、しかもマルチのアンテナ付き!」
「こら、段々趣旨から離れてる!」
「シスターの修道着!しかもクロノクルセイドのロゼッタ風」
「だからアイちゃんはどうなった!」
「じゃアルプスの少女ハイジはどう!」
「真面目にしろ〜!!!」
ということが延々と続いたが、結局は報われなかったそうな(笑)
「もう、ミナトさんったら〜趣味だしまくりなんだから」
「だって〜」
「最初からユキナちゃんに頼むんだった・・・」
なんとか途中で飛び入り参加したユキナが仲裁に入ってどうにか収まる。
とりあえずユキナの薦めでイネスの服装は木連女学生の制服に落ち着いた。
さて続いてその洋服に似合う演技力が求められる。
目指すのはあくまでも『お兄ちゃん、抱きしめて♪』である。
今度こそ人選を間違えないように選んだのが・・・
「人気美少女声優メグミ・レイナードで〜す♪最近ドラマにも出てま〜す」
「人気美少女漫画家&コミケの女王&コスプレクィーンのアマノ・ヒカルです〜」
「「二人で初めてのコミケにおけるコスプレデビューを強力にサポートします♪」」
「あぁぁぁぁ〜また人選間違えた〜!!!」
イネスさん、頭を抱えて叫んだ(笑)
メグミ「まぁイネスさん喜んじゃって♪」
イネス「喜んでない!」
ヒカル「さすがイネスさん♪時代は妹属性っしょ♪」
イネス「誰が妹属性かぁ!」
ヒカル「そうそう、折角ナデシコには女性キャラがいっぱいなのに妹属性の人が少ないんですよ」
メグミ「だからイネスさんが入ればシスプリに勝てます!」
イネス「え!?ナデシコに12人もいるの?」
ヒカル「ルリルリにラピラピにユキナっちにホウメイガールズ全員でしょ?それから艦長に・・・」
イネス「待って?ミスマル・ユリカも入ってるの!?」
ヒカル「妹属性ですから年は心配しなくてもかまいませんよ♪」
イネス「誰が年の心配をしてるかぁ!」
メグミ「でもイネスさんなら妹キャラよりもモリガンの方がいいかも」
ヒカル「ダメダメ今の流行は『やっぱ最優先事項よ♪』でしょ?」
イネス「どっちも良くない!」
メグミ&ヒカル「「でも、やっぱりコスプレするからには同人誌の売れ筋を狙わないと」」
イネス「狙わんでいい!!!」
あまりの頭の痛さにこめかみを押さえるイネス。
ともあれ、ここで全てを投げ出しては『お兄ちゃん、抱きしめて♪』を実行できない。
ということで早速レッスン開始
「はい、まずは『は〜い、アイちゃんで〜す♪』と言って下さい」
「う!」
いきなり難問である。まるでアイリス風に言わないといけないらしい。
「は・・・は・・・い、アイち・・・ゃんで・・・す・・・」
「ダメダメ!もっとハキハキと!」
「は〜い、アイちゃんです!」
「声が怒ってます!もう一度!」
照れるイネスを思いっきり叱るメグミ
しかし本人は思いっきり恥ずかしいらしい。
まぁ当たり前だけど(笑)
「は〜い、アイちゃんで〜す♪」
「ダメダメ!まだ松井菜桜子ヴォイスが残ってます!
もっとこう、川上とも子ヴォイスを出して下さい!」
「出来るならやってるわよ!」
「仕方がないですねぇ。じゃ、川田妙子ヴォイスで許しますから」
「もっと萌えキャラ声優になってるじゃないの!」
「それもダメですか?なら金田朋子ヴォイスで・・・」
「だから声優ネタはやめろと言ってるだろうが!!!」
『しばらくお待ち下さい』のテロップがしばらく流れる
「仕方がありません、とりあえず声は中の人のままで行きましょう」
「中の人なんかいないけど・・・まぁ良いわ」
もちろん、テロップが流れている間にメグミとイネスとの間に何が起こったかは秘密です(笑)
「ということで、声から攻める方法は諦めて可愛いポーズに移りま〜す」
「ヒカルちゃん・・・大丈夫なの?」
続いて登場のヒカルのお気楽な態度に一抹の不安を感じるイネス。
「それじゃ〜まずは両手を胸の前に当てて♪」
「こ、こう?」
「そう、ちょっとうつむき加減で」
「こ、こうかしら?」
「そんな感じで、下から見上げるような感じで」
「こ、こんな感じ?」
イネスはヒカルに指示された通りにポーズを取る。
そう、このポーズは萌えキャラが使うその名も『お願いがあるの、聞いてくれる?』ポーズである!
「そう、そして甘えた口調で例の台詞を!」
「お、お兄ちゃん、だ、抱きしめて♪」
イネスは精一杯可愛い声でその台詞を言った。
まだ松井菜桜子ヴォイスが残っていたりするが。
しかし、その表情はというと・・・
ニヤリ・・・
「ヒカルさん〜私恐い〜」
「大丈夫よ、アレは口裂け女じゃないから!」
「ちょっと待たんかい!誰が口裂け女じゃ〜!!!」
さすがにイネスのお願いの眼差しは出来損ないとなってひきつった笑いにしかならなかったらしい。
「ニヤリは恐いですよ、ニヤリは」
「だって、そんなお願いの眼差しなんてやったことないんですもの」
「こりゃ、前途多難だねぇ」
こうまで萌えキャラが似合わないとは・・・
ヒカルもメグミも頭を痛めた。
しばらく考えた後・・・
「わかりました!」
「何がわかったの?」
「イネスさんはまず笑うことから始めた方が良いです」
「笑うところから?」
突如のメグミの提案に首を傾げる。
「イネスさんは説明好きが高じてか、難しい顔になっちゃってるんですよ」
「だから笑った方が良いってこと?」
「そうそう」
イネスは嫌な予感がした。
「ということで笑ってその強面に凝り固まった顔の筋肉をほぐしてもらいましょう♪」
「は〜い、イズミちゃん、どうぞ〜♪」
「一歩、二歩、散歩〜」
「ああああああ!」
イネスは頭を抱える。
何を隠そう、現れたのはウクレレを担いだマキ・イズミであった(笑)
「笑うに笑えないわよ!」
「そんなことないよね?イズミちゃん」
「OK牧場」
「意味わからないわよ〜」
さっそく寒いギャグが炸裂(笑)
「ようこそここへ♪きぃきぃきりん♪」
「うわぁぁぁぁ!」
「萌え上がれ♪萌え上がれ♪萌え上がれ♪マンダム♪」
「かはぁぁぁ!」
「それは隠密、隠密、隠密のアッコちゃん♪」
「ぐはぁぁぁ!」
「垂れた!垂れた!垂れた!空の彼方に踊る乳!白い素肌のばっちゃま♪」
「いやぁぁぁぁ!」
イズミの繰り出す寒いギャグにフックやアッパーのようにダメージを受けるイネス
「・・・一体何が面白いかわかる?ヒカルさん」
「いやぁ、中の人の年代にはジャストフィットするんじゃない?」
今ひとつ若い人達にはわからない年代の替え歌でした(笑)
ミナトにメグミにヒカルがイネスを取り囲む。
引きつった表情がなかなか元に戻らないイネスに三人のコーディネーターは溜息をつく。アイちゃんが似合うワンピースに、引きつった笑顔、まるでイメクラのような仕草・・・
『どうしたもんかなぁ』
三人の表情からそんな言葉がにじみ出ていた。
「だ、だってぇ〜」
既にイネスでもアイちゃんでもない出来損ないが涙目で答えた。
「やっぱり無理だったようねぇ」
「そうですよねぇ」
「まぁ結構楽しめたからいいんじゃないの?」
「ここまで私を崩しておいてさっさと見捨てるのか!
っていうか、見捨てないで〜〜」
ミナト達が口々に諦めるところを必死に縋り付くイネス。
「という事で、プロの方にお任せする事にしました♪」
「プロの・・・方?」
ヒカルの自信満々の台詞にこれ以上誰が出てくるのか?という顔をするイネス
・・・今までの展開で言えばろくな事が起きない・・・
イネスはそ〜っと回れ右をして戦略的撤退をしようかと考えた。
しかし時既に遅し
その人物は紹介されてずずずいっと出てきた。
「こちらは美少女愛好家にして妖精に関しては第一人者の・・・」
「アララギです♪」
「イヤァァァァァ!」
イネスは心底その場を逃げ出したかった。
けれど両腕をメグミとミナトにがっしりと捕まれて逃げるに逃げられなかった。
「私が立派な美少女のあるべき姿を教えて差し上げますよ♪」
アララギの笑顔はあくまでも紳士的だった。
邪心など全くない、あくまでも清らかで純粋に美少女達を愛していた。
それは嫌と言うほどわかる。そういうオーラがにじみ出ていた。
けれど・・・
「やっぱり嫌なものは嫌なの〜!」
イネスは思いっきり絶叫するのであった(笑)
「しかし、イネスさん遅いなぁ」
ポリポリポリと頬をかくアキト。
ここはナデシコ長屋の近くの小高い丘。ひっそりとした佇まいが人気でナデシコクルーの間では密かなデートスポットになっていたりする。
昨日、電話でイネスにここでの待ち合わせを約束させられたのだ。
電話口から聞こえてくる声というか、雰囲気が少しいつものイネスさんと違っていた気がしたのだが・・・
で、アキトは律儀にここにいるのだが、肝心のイネス本人はまだ来ない。
「お兄ちゃん〜〜」
「ん?」
アキトは背後から聞こえてきた声に気づいて振り返る。
遠くから聞こえる声
その声の主は徐々にアキトの視界に入ってきた。
「イネスさん、おそ・・・」
遅い、そう言おうとしたアキトであるが、その声は徐々に凍り付いた。
「お兄ちゃん〜〜♪」
手を振ってイネスは丘を駆け上がってきた。
その姿は実に愛らしい。
実際に愛らしい。
けれどアキトの顔は徐々に引きつり始めていた。
「私を抱きしめて♪」
アキトはガクガグブルブル震えだした。
『アレハ、イネスサンデハナイ』
アキトは思いっきり逃げ出した。
そりゃそうだろう。
川上とも子ヴォイスで話しながら、ゴスロリ風の可愛いドレスを着て、羽根で飾られた帽子を被り、白い日傘を差して、金髪を結いもせずにフワフワとたなびかせながらやってくるイネスの格好を見れば。
「お兄ちゃん〜♪」
「嫌だぁぁぁぁ!」
二人の追いかけっこは数時間続いたそうだ。
「やっぱりイメクラみたいですねぇ」
「たまにアキバであんな人見るけど実際に街中で着ちゃまずいよねぇ」
「まぁ本人の好き好きだからいいんじゃないの?」
「そう思うなら最初からやらさなきゃ良いでしょうに・・・」
メグミやミナト、ヒカルが口々に失笑を漏らすのに思わず突っ込むユキナであった。
ちなみにイネスがその後「お兄ちゃん、抱きしめて」を出来たかどうかは定かではない(笑)
ということで黒プリ後日談その3をお届けしました。
何でこんな話になるかなぁ(笑)
というわけで最終話におけるイネスさんのフォローの意味を込めて書いたのですが・・・全然フォローになってないし(爆)
今のイネスさんは多少はアイちゃんが入っていますが、実際問題、素直にイネスがアイちゃんの振る舞いをしたって違和感バリバリってことで思いついたのがこのお話でした。
お腹を抱えて笑って頂けたのなら本望です。
ということでおもしろかったなら感想をお願いします。
では!
Special Thanks!!
・Aaya 様
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