私達は今日も戦っています。
それが明日に繋がると信じているから
でも戦うだけが明日に繋がる全てではありません。
なぜなら私達が戦っている相手は木星蜥蜴などという正体不明の無人兵器ではなく、血の通った人間なのですから。
ならば疑うことだけじゃなく、信じてみることも出来るのではないでしょうか?
ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜
こんにちわ、ホシノ・ルリです。
ここはインド洋のど真ん中
今は木連軍と地球連合軍は真っ正面から睨み合い
「睨み合いするだけなら被害もなくて良いよねぇ〜」
って言うのはミナトさんの弁ですけど、実はそれに同感だったりします。
で、睨み合いは続き、既に数時間経過。
もう少ししたら痺れを切らして戦闘が始まるんでしょうけど。
そしてナデシコは連合軍に加わっているんですけど、戦線から遙か後方にひとりぼっちでぽつんといます。
まぁ、以前オモイカネ暴走事件の際に敵味方を撃っちゃったから信用されていないんでしょうけど
メグミ「私達は楽で良いですけどねぇ」
ミナト「っていうか、お飾りだけならわざわざ私達を呼ぶ必要ないのに・・・」
エリナ「そこ、やる気のない台詞を吐かないの!!!」
アカツキ「まぁ、毛嫌いしているとはいえ、いざとなったらナデシコの戦力がないと不安なんでしょ?頼られているうちが華だよ。」
と、クルーの一部の呟きでもわかるように、戦闘待機中とはいえナデシコは概ね平和であった・・・
さて、こちらでは戦闘の始まる寸暇を惜しんでアキがアキトに訓練を付けていた。
アキ「まだダメ!体を捻っている!」
アキト「はい!」
現代人には酷だろう。古武術の動きをマスターするのは。
西洋の合理主義が生まれながらに身に付いてしまっている以上、右手と右足を同時に出して歩け・・・というのも難しい話だ。
しかも、この走り方はスピードをあげて走るのには向いていない。
アキ「でもね、この動きは体の負担を可能な限り押さえてくれるわ」
アキト「わかっているんですけど・・・」
アキ「現代の格闘技に用いられる捻りを伴った動きは確かに瞬間的なパワーを生み出すことに成功している。しかし、捻る動作はそれ自身が体にストレスを与えている。
体に無理を強い、体力を消費させ、戦士としての寿命を減らしている。
スポーツ選手が肘や肩を壊すのは全てそのせいよ。
私の流派は如何に体の負担を少なく、最小限の力で最大限の威力を求める。
それは一対多の戦闘にて効果を発揮する。
疲労を蓄積しない・・・それは長く戦闘力を持続させるためにとっても重要な事よ」
アキト「はい!」
アキトはこの数週間でその事が痛いほどわかっていた。
確かにこの戦い方は疲れない。
全ての動きが理にかなっている。
従来の戦い方は相手が防御する上から無理矢理なぎ払おうとする力ずくの技ばかりだ。
だが、この戦い方は違う。
相手の弱点を突く。相手の力点を崩すポイントを攻撃する。
例えば、基本の技となる波陣であるが、これはとにかく相手の技が発生する前に攻撃してしまおうという技だ。
もし相手の技が発生してしまえばその技の威力は100%発揮されてしまう。
しかしその発生源を押さえればそもそも威力そのものが発生しない、あるいは非常に低く抑えられる。
受けるダメージは大幅に減る。
だけど、それはとても怖いことだ。
万が一間違えば相手の技をまともに食らうことになる。
いくら刀の刃先よりも柄の部分がダメージが低いといって相手の懐にあと一歩踏み込めと言っているようなものだ。
頭では理屈はわかっている。
でもそれを体得するのは非常に難しい・・・とアキトは思う。
ようやくこの間リョーコが言っていた意味がわかった。
確かに自分の体の動きが急速に組み替えられている実感が湧いてきた。
でもどこかでその領域に踏み込むのを怖いと感じている自分が存在する。
あと一歩踏み込めばもう引き返せない。
行った先で強くならなければならない。
刃を刀の柄付近で受け止めるような死と隣り合わせの戦い方しか出来なくなる・・・
アキトは今初めて怖いと思った。
アキトがだんだん気づき始めている事をアキも察し始めている。
でも、ここからが肝心だ。
ここで恐怖が身に付いてしまったら何もかも失う。
だからここからは慎重にしなければいけない。
だけど、アキはなぜか急いでいた。
彼女にはわかっているのだ。
もうすぐ黄昏は訪れる。
夜の帳が辺りを包む。
モラトリアムはもうすぐ終わり、終曲への幕が開く。
それまでに、
せめてそれまでに、
自分がいなくてもアキトが誤った方向に進まないように、彼を鍛えておきたい。
彼の身に何が起きても正しい道を切り開けるだけの力を付けさせてあげたい。
全てを知って、それでもなお絶望しないだけの力を・・・
そう思うとどうしても焦ってしまうアキであった。
さてさてその後、案の定痺れを切らした連合軍と木連軍は戦闘を開始した。
とはいえ、基本的に後方支援部隊であるナデシコの出番はなかった。
お呼びでないという奴である。
その為、前線でのドンパチにも関わらず、ブリッジはひどく呑気な雰囲気であった。
アキトは先程の訓練の疲れでクカーーーと居眠り状態。
リョーコら三人娘は今日の占いを見て、リョーコに告白しろだのなんなのと言っている。
ルリはモノポリーをやって時間を潰し、
ラピスはゲームをやり尽くしたのか、ハットリスをやってクソゲーランキングでも作るみたいだ。
ミナトは頬杖をついて眠そうにあくびをし、メグミはちょっぴりマニキュアを直している。
良識派と思われていたゴートとプロスに至っては長椅子を持ち込んで将棋をする有様。
真面目に仕事をしているのは意外にもユリカだけだったりする(笑)
で、そんなユルユルの雰囲気をこの女性が黙って見ているわけがなかった。
エリナ「あんた達!もうちょっとシャキッとしなさい!
シャキッと!!!
仮にも第一種戦闘配備中でしょ!!!」
メグミ「でも〜〜なんか私達だけ仲間はずれって感じなんですけど〜」
エリナ「当たり前でしょう・・・」
気の抜けた返事にエリナは沈痛の面持ちで憂う。
まぁ、自分が一軍の将ならこの気の抜けたクルー達に戦闘を任せようとは間違っても思わないだろうが(苦笑)
だが、エリナは挫けない。
真面目に軍隊らしく振る舞う必要性を力説していた。
「確かに今は膠着状態だけど、いずれ地球圏から木星蜥蜴とチューリップを一掃する日が来るわ!そのときこそナデシコの出番!!!
一気に火星に攻め込むとき、ナデシコの真価が問われるわ!
そう、戦局はきっと変わる!
変わるわ!!!」
だが、今日の継続の明日しか想像できない人間にとってそれはあまりにも現実味が薄い。
明日も、そして明後日もこの怠惰な日々が続くモノとばかり思っていた。
ユリカ「そうですね♪」
エリナ「ってあんたがその顔で言うのが一番緊張感がないのよ!」
ユリカ「この顔は生まれつきです。
それにアキトはこの笑顔を素敵だって言ってくれてます♪」
アキト「言ってないぞ!」
アキトのツッコミはともかく、ユリカは真面目にエリナの言うことを聞いているのだ。
ユリカ「だって艦長に再任されましたから初心に戻って間諜らしくビシッと♪」
エリナ「字が違う!・・・だからよけい不安なのよ・・・」
やる気以外、何も変わっていないユリカにがっくり肩を落とすエリナであった。
だが・・・
アキ「そうよ。気を抜いちゃいけないわ」
ユリカ「アキさん」
訓練の後シャワーを浴びたアキがバスタオルで頭を乾かしながら入ってきた。
アキ「戦場に前線も後方もない。
後方支援が安全なんて考えは捨てた方が良いわ。
むしろ孤立している後方部隊ほど危険なものはない・・・」
ユリカ「ええ・・・」
アキの忠告に珍しく真剣な顔で同意をするユリカ。
するとまるでそれに呼応するかのように異変は起こった!
ルリ「ボース粒子増大」
ドゴォォォン!!!
ルリの言葉を待たず、爆発音と衝撃がナデシコに響きわたった。
ゴート「どうした!」
メグミ「第二格納庫被弾!」
ゴート「なに?どこからだ!敵の砲撃か!?」
メグミ「いえ、敵影は・・・」
ルリ「再びボース粒子増大」
ユリカ「緊急回避!」
ミナト「ってどっちに!?」
ユリカ「任せます」
ミナト「もう、カンで行くわよ!」
錯綜するブリッジでユリカは何とか指示を出す。
ミナトは舵を切ると2回目の爆発はちょうどYユニットの先端をかすめた。
メグミ「Yユニット左艦首に被弾」
ユリカ「近くに敵影は?」
ラピス「ないよ」
ゴート「敵からの攻撃じゃないのか?」
エリナ「でも変ねぇ、爆発の割には被害が少ないような・・・」
ウリバタケ『どうした、どうした!?
敵襲か!?』
情報収集に努めるブリッジにウリバタケがでっかいウインドウを開いて抗議をし出した。
ウリバタケ『ま、俺様の発明ディストーションブロックがなければ今頃全員お陀仏だったけどな』
一同「ディストーションブロック?」
ウリバタケ『よくぞ聞いてくれました!
ディストーションブロックとは爆発した区画だけをディストーションフィールドで隔離してしまい、被害を最小限に抑える機能だ!!!
こんな事もあろうかと密かに発明しておいて良かったぜ』
エリナ「あんた!Yユニットの整備をほったらかしてそんなことやってたの!?」
ウリバタケ『そう言うな。おかげで役に立ったんだからさぁ』
エリナ「良くないわよ!Yユニットが不調だからこんな風に後方支援しかまわってこないのよ!」
ウリバタケ『こんな事もあろうかと・・・ククク!
一度は言ってみたかった、この台詞!!!』
エリナ「くうぅ!」
ユリカ「ルリちゃん、ウリバタケさんのウインドウ、片しちゃって」
ルリ「了解」
ウリバタケ『こら、俺の出番が・・・・』
ブチン!!!
ユリカはウリバタケをこれ以上相手にしても仕方ないと思ったのか、さっさとウインドウ通信を切断した。この非常時に悠長に自慢話など聞いていられない。
メグミ「チューリップより有人戦艦が出現してくるのを確認、
こちらへ急速に接近してきます」
ユリカ「スクリーンに出して下さい」
そこにはチューリップから出現した後、夕日を背に敵戦艦が一直線に迫ってくるのが映っていた。
アキ「まぁ後方で孤立している戦艦を襲うには絶好のタイミングねぇ」
ユリカ「ええ・・・」
アキの独り言に頷くユリカ
そこにまたまた急を要する報告が入った。
ルリ「ボース粒子増大」
ゴート「どこだ!」
ルリ「ここです」
ジュン「ここ!?」
ルリ「ナデシコブリッジ直下です」
エリナ「艦長!」
みんながユリカの指示を仰いだ。
ユリカは迷いもせず、即決した。
ユリカ「逃げましょう」
一同「え!?」
ユリカ「ナデシコ緊急上昇!」
ミナト「それだと宇宙に出ちゃうけど・・・いいの?」
ユリカ「かまいません」
ルリ「まもなくボース粒子実体化・・・」
ミナト「もう、了解!」
向こうはブリッジを良く狙うために照準に時間をかけすぎたのか、
あるいはユリカの即決が効いたのか、
ナデシコが遙か上空に逃げおおせた後、弾頭らしきモノがさっきナデシコのブリッジがあった場所に顕在化し、そして爆発した。
タイミング的にもう少し遅かったら爆発に巻き込まれたところであった。
さてさて、外の景色はすっかり星座の海
成層圏すら抜けたナデシコはどこへ行くでもなく宇宙空間を逃げ回っていた。
なぜなら敵の戦艦が律儀にも一生懸命追いかけて来ている為である。
こうなると狙いは完全にナデシコのようだ。
まぁそういう意味ではナデシコが過大評価されている事はラッキーだったかもしれない。
あの兵器が連合軍に使われたらたまったモノではない。戦線をズタボロにされたことだろう。
とはいえ、ナデシコ自身には全然嬉しくない。
未知の兵器で攻撃されている以上、対処方法がわからなければ逃げるしかないのだ。
ブリッジのユリカは難しい顔をしながら考え込み、調査が終わる頃を待っていた。
エリナ「で、どこまで逃げるつもり?」
ミナト「敵さんが追いかけてこなくなるまでじゃないの?」
エリナ「このままいったら月まで逃げることになるわよ?」
ジュン「あ、そういえばこの方角って月ですねぇ」
リョーコ「追いかけっこしたってきりがないんだ。逃げずに戦おうぜ!」
アカツキ「で、謎の新兵器でドッカーンかい?」
リョーコ「う・・・」
ゴート「確かにこれでは埒があかないが・・・」
ジュン「まぁ月の連合軍にこんなお土産を持っていっても追い返されるでしょうけど(汗)」
プロス「どうなさるのですか?艦長」
みんなの視線がやはりユリカに集まる。
ユリカ「アキさんはどう思います?」
アキ「再任されたんでしょ?艦長」
ユリカ「はい・・・」
ユリカは少し困った顔でアキに縋るように視線を向けるが、アキはやんわりと自分で考えるようにと微笑んだ。
ユリカ「イネスさん、何かわかりました?」
縋るようにイネスに通信を入れると、ウインドウは高揚したイネスの顔を映し出した。
イネス『今からわかりやすく手早くコンパクトに説明するからちょっと待ってて♪』
ユリカ「え?」
なんか、やたら張り切るイネスに、聞かなきゃ良かったと思うユリカであった。
アキ「ちょっと待て、このタイトルはなんなの!」
イネス「何って、毎回なぜなにナデシコ形式じゃ飽きるから、今回は人形劇風に・・・」
アキ「それは良いとしてなぜ『101匹アキちゃん物語』ってタイトルなのよ!
謎の敵兵器の解説じゃないの!?」
イネス「いや、だから小さいアキちゃんが101匹出てくるという心温まる・・・」
アキ「温まらんでいいからさっさと解説しなさい!
時間がないんだから!!!」
イネス「仕方がないわねぇ。
じゃ、人形浄瑠璃風に・・・」
アキ「ダメ!」
アキの抗議により、100匹分のちっちゃいアキちゃん人形と人形浄瑠璃風アキさん人形は片づけられた(笑)
仕方がないのでイネスは手にはめるパペット風のアキちゃん人形で説明を開始することになった。なぜか会話は腹話術。
合いの手の拍子木を叩くのはなぜかラピス(笑)
ブリッジに集まったナデシコの良い子はイネスお手製の人形劇の小舞台の前で駄菓子を頬張っていた。
えびせんべい、するめ、冷やし飴、パラソルチョコレート、ミルキー、ぺろぺろキャンディー、きなこ餅、りんご飴、綿菓子などなど
隣でウリバタケが商売を始めていたりする(笑)
アキ人形「事故現場を調査したところ、爆弾と思わしき破片を発見したっちゃ」
アキ「私の人形にラムちゃんみたいなしゃべり方をさせるのは止めて下さい」
イネス「もう、良いじゃない!それじゃ・・・」
アキ人形「発見したにょ」
アキ「でじこもダメ」
アキ人形「発見したアルネ」
アキ「中国娘もダメ!」
アキ人形「発見したデシ」
アキ「んな元ネタがわからないのもダメ」
アキ人形「の〜」
アキ「余計わからないわよ!!!」
イネス「もう、何なら良いのよ!」
アキ「普通に話してください!!!」
再びアキからのクレームが入る。
渋々普通の語り口調で説明をし出すイネスであった(笑)
アキ人形「事故現場を調査したところ、爆弾と思わしき破片を発見したよ」
イネス「爆弾?」
アキ人形「うん、木連軍が使っている通常弾頭みたいなの」
ユリカ「つまり、それってさっきの攻撃はあの戦艦からってこと?」
イネス「そうみたいね」
アキ人形「でも、どうやって艦内で爆発したの?
誰も弾が飛んでくるところ、見てないよね?」
イネス「そう、そこなのよ!」
ラピス「チョイーン」←拍子木を鳴らしています
イネスの左手にはゲキガンガーのぬいぐるみが握られている。
イネス「さて先日来から猛威を振るっている敵の巨大人型兵器の事は良く知っているわね?」
アキ人形「相転移エンジンを積んでいるんだよね?」
イネス「そうね。小型だけどグラビティーブラストを装備しているわ。
でも恐ろしいのはそれだけじゃないの!」
ラピス「チョイーン」←拍子木を鳴らしています
イネス「アキちゃんはボソンジャンプという現象を知っているわよね?」
アキ人形「うん!ワープみたいな奴でしょ?
でもアレってチューリップが必要なんじゃ・・・」
イネス「そう、あの機動兵器が恐ろしいのはチューリップの介在なしにボソンジャンプを可能としている点よ。」
そこまで聞いて一同はイネスが何を言いたいのかわかった。
アカツキ「なるほど。機動兵器がジャンプできるんだ。
ならば同じ方法で爆弾だろうがなんだろうが送りつけられるって事か」
イネス「その通りね」
プロス「ディストーションフィールドで防ぐことは・・・」
イネス「まぁ無理ね。フィールド内に直接転送されて来るんだもの。これに対する防御手段は皆無ね」
ジュン「それじゃ・・・」
一同は青ざめる。
そんな相手に勝てるわけないじゃない・・・
でも少し異なる反応を示す人物もいた。
ユリカ「ボソン砲・・・」
エリナ「え?」
ユリカ「いやぁ、なんか名前がないと感じでないと思って♪」
イズミ「死んだ孫の法事、亡孫、法事・・・ククク」
ユリカ「なんとコメントして良いやら(汗)」
とまぁ意味不明なギャグは置いておくとして、イネスの意見は違ったようだ。
イネス「でもそのボソン砲にも弱点がある。わかる?」
ミナト「え〜?」
メグミ「そんなこと言われても・・・」
リョーコ「そういえば心当たりがあるような・・・」
アキ「ゲキガンタイプと戦ったことのあるアキト君ならわかるわよね?」
アキト「えっと・・・・あ!」
ゴート「そうか!射程か!」
正解を答えたゴートたちに花丸5重丸をあげるイネス。
イネス「そう、その気になればとっくの昔にナデシコは敵の攻撃で落とされている。
でもアキト君達が戦った様にゲキガンタイプのボソンジャンプは近距離のモノしか実現していない様に、あの攻撃も近距離にしか対応していないものと推測されます」
ルリ「で、どのぐらいなんですか?」
イネス「そうねぇ、今のナデシコと敵艦の距離、それにゲキガンタイプのジャンプパターンから見て大体数千m、長くても10kmまでと推測されます。」
その言葉にクルーの顔には幾分安堵の色が戻った。
少なくとも距離を取る分には驚異はなさそうだ。
とはいえ、このまま逃げ回るわけにも行かない。
リョーコ「ならエステで突っ込むか?」
イズミ「のこのこ近づくところをドッカーン」
ヒカル「で、リョーコのラブラブも果たせぬまま・・・」
イズミ&ヒカル「ドッカーン♪ふぅ、ごちそうさま」
リョーコ「こら、てめぇら!!!」
と外野の悪ふざけはともかく、一同の間にまたまた手詰まり感が漂っていた。
アカツキ「遠距離からグラビティーブラストを撃ち合ってみてもフィールドに弾かれる。エステで近づいてもドッカーン・・・やっぱ打つ手なしか?」
エリナ「どうするつもり?ミスマル・ユリカ」
一同の視線はユリカに集まった。もちろん、彼女が艦長だからだ。
ユリカ「アキさん・・・」
アキ「艦長はあなたじゃなくって?」
ユリカ「そうです」
どうも最近みんなの目が、特にユリカの目が自分に集まっていることを憂慮したアキはまたもやんわりと拒絶した。一介のパイロットを精神的支柱にしようと思う精神状態の方が異常だ。だからアキはわざとユリカを突き放した。
さてそのユリカが取った行動はというと・・・
やおら座禅を組むと、指を頭のそばでくるくると回した。
いわゆる一休さんスタイルという奴である。
ポクポクポク・・・・ラピスが横で木魚を叩く。
エリナ「で、どうなの?」
ユリカ「ん・・・・」
エリナ「もしかして何も思いつかないんじゃないの?」
ユリカ「ん・・・!!!」
エリナ「どうなの、ねぇ!!!」
ユリカ「この格好ではダメです!!!」
ユリカは一休さんスタイルを諦めたのか、ユリカは今度は逆立ちしだした
ユリカ「ひらめけ〜ひらめけ〜」
エリナ「・・・なに?これ」
ウリバタケ「暴れはっちゃくか・・・懐かしいな」
ヒカル「っていうか、知っている人の方が珍しいんじゃない?」
ミナト「この人、本当にピチピチの二十歳なの?」
ルリ「私に聞かれても自信がありません」
ラピス「その前に逆立ちしておっぴろげないで」
プロス「まぁ、何か思いついたら発言すると言うことにしましょう(汗)」
さすがに体を張って思いつかないと表現するユリカに居たたまれなくなったプロスはそう提案するのであった(笑)
さてさて、追いかける方のかんなづきでは優勢に酔っていた。
三郎太「ハハハ!奴ら、我らが跳躍砲に臆したと見える。
奴ら、根性のない臆病者ですよ♪」
源八郎「違うな」
木連軍優人部隊、戦艦かんなづきの副長高杉三郎太が驕るのを艦長秋山源八郎が諫めた。
三郎太「なぜですか?現に奴らは逃げ回るしか・・・」
秋山「だが、その機転の早さで跳躍砲の第3射が外れた。
1射目は喰らったものの、2射目にはかするだけに抑え、3射目にはかわした。
つまり未知の攻撃にたったの3回で順応したという事だ。
うろたえもせずに、的確に。
その判断の速さは並大抵の胆力じゃできない。」
三郎太「買いかぶりすぎでは?」
秋山「そうか?
奴らは跳躍砲の弱点・・・出口を跳躍門にしない場合の射程の短さを確実に悟っている。逃げ回れば攻撃されないことを知っているのさ」
三郎太「ですが・・・」
単に逃げの一手を打ったことが良い方向に働いているだけでは?と思う三郎太の意見を彼は否定した。
秋山「しかし、現にあの撫子には白鳥も月臣も敗れている。
この戦い、舐めたら痛い目見るのはこっちの方かもしれんぜ?」
三郎太「なんか艦長・・・楽しそうですね?」
秋山「・・・かもな」
秋山は三郎太の言葉に嬉しそうに笑った。
久々に歯ごたえのある敵に出会ったからかもしれない。
秋山「三郎太、お前こそどうなんだ?
わざわざ自分のデンジンを持って来ているじゃないか」
三郎太「わかりますか?」
秋山「黒い人型兵器・・・優人部隊でも噂だからな。
若い奴の間じゃ誰が一番槍を立てるかで賭けているらしいが・・・
そんな浮ついた理由じゃないだろうな?」
三郎太「そんなんじゃありません。
ですが、白鳥先輩を赤子のように扱ったそうじゃないですか。
そんな強い相手を前にして挑まなければ武人の名折れでしょう!」
秋山「だがあの狂犬北辰すら下したらしいが、お前が挑んで敵う相手か?」
三郎太「勝ちます!」
秋山「ふふふ、まぁ熱くなりすぎるなよ。
貴様は俺の大事な副長なんだからな」
三郎太「わかってますとも!」
秋山源八郎、男気あふれる根っからの武人であり、その部下高杉三郎太もそれに劣らず熱い漢であった。
さて、一方追われる側のナデシコであるが、手詰まりの状況で何か打開策がないかをみんなで考えようということでシンキングタイムと相成った。
とはいえ、一朝一夕で妙案が湧いて出るわけもない。
ただウリバタケの売る駄菓子だけが飛ぶように売れた。
ユリカ「アキさん・・・」
アキ「ん?どうしたの?」
ユリカ「いえ・・・」
ユリカは助けて光線をアキに照射するが、もちろん彼女はそれを丁重に無視した。
ミナト「いつまで逃げ回るんだろうねぇ」
メグミ「そうですね、春物のバーゲンがもうすぐ始まるから早く戦闘が終わって欲しかったんですけど・・・」
ミナト「まぁ何日もこのままじゃないと思うけど・・・」
と、緊張感のない会話をしている者達もいれば
リョーコ「だからエステで・・・」
ヒカル「突っ込んでドッカーン?」
イズミ「土管に突っ込んでドッカーン・・・なんちって」
笑えないギャグを言ったりする者達とか・・・
ラピス「今回、私達脇役?」
ルリ「ええ、前回と前々回は主役でしたし」
ラピス「主役だっけ?」
ルリ「主役でした・・・懐かしい話ですが」
ラピス「そうね」
ルリ「そうですよ」
ちょっぴりロンリネスなのか他人事な者達とかいたりするのだが・・・
アキト「あ〜あ・・・」
アカツキ「どうしたんだい、テンカワ君。元気がないぞ?
確かに追われる身ではあるけど」
アキト「いや、そうじゃなくって
実はホウメイさんに釣りを教えてもらう約束をしてたんだ」
アカツキ「釣り?ああ、確か戦闘が終わったら近くの港に寄港するはずだったねぇ」
アキト「火星じゃ海がないだろ?それに戦艦じゃ新鮮な魚ってなかなか手に入らないから、釣りをするついでに新鮮な魚の締め方とか捌き方を教えてもらうはずだったんだ」
アカツキ「そりゃ残念。海は海でもここは星座の海だからねぇ」
と、なんてことはないアキト達の会話であったが、それを何気なく聞いていたユリカはハッと閃いた。
ユリカ「アキト、今なんて言ったの!?」
アキト「え?」
そんな会話でユリカに飛びつかれるとは思わなかったアキトは大いに驚いた。
だが、そんなアキトにお構いなしにユリカはアキトに詰め寄った。
ユリカ「だからさっきなんて言ったの?」
アキト「なにって、魚の捌き方を・・・」
ユリカ「そこじゃなくって、もっと前!」
アキト「火星には海がないって・・・」
ユリカ「行き過ぎ!」
アキト「行き過ぎって・・・えっとホウメイさんと釣りの約束を・・・」
ユリカ「そうよ♪釣りよ♪
どうして今まで気づかなかったんだろう♪」
アキト「・・・釣りがどうかしたのか?」
ユリカ「アキトありがとう♪アキトはやっぱり私の王子様だね♪」
何を思いついたのか知らないがルンルンのユリカは自分の考えに浮かれきっていた。
『だから釣りがなんだっていうのさ・・・』
という一同の疑問が解消されるのに今しばらくかかるだろう事は十分予想された(笑)
ウリバタケ「全機空戦フレームからゼロG戦フレームに換装だ!
ピットのモードを大気圏から宇宙用に切り替えるのを忘れるな。
時間がないんだ、急げよ!」
整備班員達「はい!」
格納庫では出撃準備は急ピッチで進んでいた。
現場はてんやわんやだった。
何しろついさっきまで海上での戦闘用にエステバリスをセッティングしていただけに6体一斉に変更となるとそれだけで大変な作業になる。
だが、現場が混乱していたのはそのせいだけではなかった。
整備班員「班長〜本当にミサイルを全部時限発火にするんですか?」
ウリバタケ「そうだ!」
整備班員「でも・・・」
訳が分からない。
普通ミサイルは発射時に自動着火して目標に向かって飛んでいく。
しかし時限発火の設定にしてしまえばただばらまかれるだけだ。相手がこっちに来てくれなければミサイルは爆発してくれないのだ。
つまりただの機雷と大差ないのだ。
ウリバタケ「でももへったくれもない!艦長がそうしろって言ってるんだ!
あのお姫様がよ!
不満があるなら翻意を促して来いよ!」
整備班員「いえ、いいッス。
んなことする自信なんてないですから・・・」
ウリバタケ「なら時間がないんだ。さっさと作業をしろ!
それから発火後の動作は赤外線誘導にしておけよ」
さすがにユリカに向かっていく勇気がなかったのか整備班員はすごすごと持ち場に戻っていった。
そしてミサイルは全弾数が時限発火に切り替えられていった・・・
こちらではアキがパイロット全員に作戦内容を伝えていた。
アキ「全機、マニュアルで発進後、ソーラーセイルを展開した後、その場で待機。
目標が1000まで接近したら敵艦のボソン反応の高いところを最優先で攻撃。
各人の配置はコミュニケに送信したとおりよ。」
アカツキ「質問」
アキ「なに?」
アカツキ「釣り糸を垂らすポイントの選定理由は?」
アキ「艦長のカン(苦笑)」
イズミ「ま・け・た〜(泣)」
アキ「だからギャグじゃないって」
アカツキ「このポイントを外す確率だってあるんじゃないの?
なら僕らは浮かび損だよ。」
ヒカル「確かに・・・お魚が来ないのに釣り糸を垂らしていてもねぇ」
アキト「ユリカのカンだからなぁ・・・」
リョーコ「で、隊長はどう思うんだ?」
さんざんな言われようだなぁ、ユリカ君(笑)
苦笑しながらも弁護するようにアキが言う。
アキ「不安なのはわかるけど、私達の職分はやってきた戦艦の切り札を潰す事よ。
艦長が私達を信用してくれているように、私達も艦長を信用しなければいけない。
互いに信用せずに命張って戦闘できる?」
アカツキ「まぁそう言われればそうだけど・・・」
アキ「疑うなとは言わないけれど、この作戦の要は私達。
だからこそ艦長は私達を信頼してこの大役を託したの。
ならば答えるのが当然じゃなくって?」
一同「はい!」
何となく不安を感じながらも、他にいい方法を思いつかない以上、みんなユリカを信じてみることにした・・・。
食堂ではホウメイとホウメイガールズがせっせせっせとお弁当の用意をしていた。
もちろん、出撃するパイロット達の為である。
ホウメイ「ほら、急いで急いで!
あの子達が出撃しちまうよ!
お腹を空かせたまま出撃させちまったら可哀想だろ?」
ホウメイガールズ「は〜い♪」
だけど、ここはこれから起こる戦闘とは無縁なことで盛り上がっていた。
ジュンコ「なんかキャンプみたいだね♪」
エリ「そうかな?」
ジュンコ「でもでも、ロウソクもって歩くんでしょ?なんかワクワク」
ミカコ「私、怖いのダメです〜」
サユリ「いや、懐中電灯ぐらいは良いって言ってたから・・・」
ハルミ「でもお化けとかでそうだよね」
一同「キャァァァァ♪」
騒ぐ娘達に見かねたホウメイは出来上がったお弁当を指さして怒鳴った。
ホウメイ「あんた達、はしゃいでないで早くみんなに持っていってあげな」
一同「は〜い」
エリ「私、アカツキさんの持っていきます〜」
サユリ「私、アキトさんの♪」
一同「いや、それは不味いんじゃ・・・」
サユリ「大丈夫♪艦長やルリちゃんには負けないから♪」
エリ「いや、そっちじゃなくてアキさんが・・・」
ミカコ「私、アキお姉さまがいい〜〜」
ハルミ「あ、それ私がやりたい〜」
ジュンコ「ダメダメ、私がやるの〜」
ミカコ「そんなぁ〜」
とまぁ、結局はまた騒がしくなったのであるが、そんな光景をホウメイは目を細めて見つめた。
『パイロット達にとってはもしかしたら最後の食事になるかもしれないんだ。
だから笑顔で渡してあげた方がいいさねぇ・・・』
ホウメイはそう思う。
そして一食でも多く彼らに食事を振る舞いたいと願っている。
そんな願いを込めて彼女はお弁当を作ったのだった・・・
アキトはパイロットスーツに着替えた後、自分のエステに乗り込むべくいつものハンガーに向かっていた。
だが・・・
ウリバタケ「おい、アキト!そっちじゃない!」
アキト「え?」
ウリバタケ「お前のエステはそっちじゃないんだって!」
アキト「こっちじゃないって・・・」
確かに目の前にあるのは普段自分が乗り慣れているピンク色のゼロG戦フレームだ。
しかしウリバタケはそれに乗るんじゃないと言う。
渋々アキトは手招きされた方に向かうことにする。
すると・・・
アキト「え?これって・・・」
ウリバタケ「隊長さんからのプレゼントだ。」
アキト「で、でも、これって・・・」
そう、そこにあったのはアキセカンドだ。
ただし、色は黒一色からアキトのパーソナルカラーであるピンクに塗り替えられていた。
アキト「でも、これアキさんの・・・」
アキ「私はPODがあるから使って良いわよ」
アキト「アキさん!」
後ろから声をかけたのはアキであった。
確かにアキがPODに乗り換えたのだからアキセカンドは乗り手がいない状態であるのだが・・・
ヒカル「いいな、いいな、依怙贔屓〜」
イズミ「燕に貢ぐ有閑マダム」
アカツキ「待遇がいいねぇ〜アキト君は」
アキ「あんた達、敵に落とされる前に私に落とされたい?」
一同「いえいえ(汗)」
アキト「でもなんで俺に・・・」
他に操縦の上手いパイロットはいるのに・・・
そう言おうとしたアキトであるが、彼女はアキトの肩に手をおいてこう言った。
アキ「レイにサポートさせるけど、操縦感覚は私が使っていた頃のままよ。
これを今ナデシコの中で誰が使いこなせる?」
アキト「え?」
アキ「・・・アキト君はこれからこの機体を操れるように努力していかないといけない。今のアキト君ならそれが出来る。
いえ、出来てもらわないと困る。
私の後ろを着いて来たいんでしょ?」
アキト「あ・・・」
そうだ、何のために自分は今まで彼女に訓練を受けてきたのだろう・・・
普通じゃない戦い方、
普通じゃ辿り着けない高み、
大切な者を守るための力を得るために、
そして今ここにいる。
今まで鍛えられてきたのはこの機体に乗るため、
ならばたとえ無茶でもこの機体を乗りこなさなければいけない!
アキト「わかりました!俺、やるッス!!!」
アキ「その調子♪」
リョーコ「いいなぁ・・・」
アキ「あら、リョーコちゃんも乗りたいの?」
リョーコ「い、いや、あたいは・・・」
一度アキスペシャルに乗ってそのとんでもない制動特性に一発で音をあげたリョーコは思いっきり手を振って辞退した(笑)
パイロット達はそれぞれ自機に搭乗した。
アキトは感慨深げにアキセカンドに乗り込んでコックピットを眺め回した。
『これに乗ってアキさんが戦っていたんだ・・・』
そう思うとまるで女の子の部屋にお邪魔した時みたいな気分になる。
『どことなしかアキさんの残り香が・・・』
「するわけないだろ!」
「うわぁ!!!」
アキトは匂いを嗅ごうとしていた所をウリバタケに咎められる(笑)
ウリバタケ「このピットはお前のだ。アキちゃんの匂いなんかするわけないだろ!
バカが、ハァハァし出すな!」
アキト「そ、そんなことしないっすよ!」
とはいうものの、ちょっぴり図星で焦るアキト。
何とか誤魔化そうと辺りを見回すと、ちょうど目に入ったのは・・・
アキト「それはいいけど、エステの手に持っているのは何?」
エステバリスの手には長細い棒のようなモノを持っていた。
しかも全機だ。
まぁPODのは最初から装備していた奴だが、アキト達のは初めて見るアイテムだ。
みんなのは槍みたいな武器だが、アキトのは先端の刃の部分が大きく、まるでハルバートという西洋の鉾斧みたいなモノだ。
ウリバタケ「あれか?アレはフィールドランサーさ。
お前のだけはどちらかというとアックスだけどな」
アキト「フィールドランサー!?」
ウリバタケ「よくぞ聞いてくれました!」
アキト「あははは・・・」
ウリバタケ「相手のディストーションフィールドに高エネルギーを流して過負荷を与え、中和してしまおうっていう兵器だ。」
アキト「本当ですか?」
ウリバタケ「なんだよ、その疑いの眼差しは。
アキちゃんのレールカノンの先っぽにも付いているだろ?」
アキト「アレってそうなの!?」
ウリバタケ「今頃気づくか・・・
効果は知っての通りだ。思いの外、性能がいいんでみんなの分を作った。
お前さんのはアキちゃんのリクエストで特注だ。
使いこなせよ」
アキト「は、はい・・・」
何から何まで驚き尽くめだ。
でもこれは使いこなしてみろというアキの叱咤激励なのだろう。
そう思うとアキトは不思議とやる気に満ちてきた。
アキト「わかりました!熱血切りを決めてきます!!!」
ウリバタケ「バカ言ってないで早くIFSの調整をしやがれ」
パイロット達の発進準備は着々と進んでいた。
ウリバタケ『弾頭は全て時限発火にしたぜ』
アキ『エステバリス全機発進準備完了よ』
ホウメイ『厨房の火は落としたよ。これでいいのかい?』
イネス『艦内をまわって不必要なエネルギー消費を抑えてきたわ』
ユリカ「ありがとうございます〜♪」
ブリッジには着々と作戦準備が完了したことの報告があがってきていた。
メグミ「敵艦の速度そのまま、本艦との相対距離変わりません」
ユリカ「それでは作戦を始めたいと思います」
エリナ「ちょっと、あんた、こんな大胆な作戦を立てて、本当に上手く行くと思っているの?」
ユリカ「上手く行きますよ♪」
エリナ「その根拠のない自信はどこから出てくるのよ・・・」
エリナはユリカの作戦を聞いてそんな大胆な作戦が上手く行くなんて思っていなかった。
何よりユリカを信用していない・・・というかこんな綱渡りを渡るような作戦を実行しきるだけの能力と度胸があるとは思えなかったのだ。
普段の彼女を見ているだけに余計だ。
だけどユリカは彼女の問いにこう答えた。
ユリカ「私が艦長だからです」
エリナ「はぁ?」
ユリカ「私が作戦を立てて、作戦を成功に導く責務があるからです。」
エリナ「だから何の根拠が・・・」
ユリカ「私が自信を持っていない作戦なんかをクルーの皆さんにやらせても勝てないでしょう。違いますか?」
エリナ「いや、違わないけど・・・」
ユリカ「ならそういうことで♪」
釈然としないながらも正論にとりあえずは矛を収めるエリナ。
そしてユリカは感じていた。
いつかアキの言った言葉を。
『救世主になるということは恋をすることと同じよ。
他人にはわからないけれど、自分には痛いほどわかる。
自分のやっていることが正しいのか間違っているのか。
自分にだけは痛いほどわかる。
そして正しいと信じる・・・本当に自分の信念に照らし合わせて正しいと信じることが出来れば・・・あとは突っ走ればいいの。』
その言葉は誰にでもない、私に贈られた言葉、
艦長としての私に贈られた言葉だから、
その時には何のことかよくわからなかったけど、
今、アキさんに突き放されてそれがよくわかった。
自らの行動が正しいと信念を持って言えること。
後で誰かのせいだと言い逃れをしないためにも、自分が考えて行動すること
誰にも恥じることのない、曇りのない信念で行動すること
それが艦長としての責務なのだと。
たくさんの人達の人生を巻き込み、それでも人々に前へ進めと言わなければいけない自分の責務なのだと・・・
ユリカ「そうですよね?アキさん♪」
アキ『そうよ』
ユリカの声に嬉しそうに頷き返すアキ
だから彼女は自信を持って作戦の開始を告げた。
ユリカ「それでは作戦を開始します。
相転移エンジンを停止して下さい」
ミナト「相転移エンジンを停止しま〜す」
次の瞬間、ナデシコの相転移エンジンは停止した。
つまりはディストーションフィールドも消失し、重力推進も停止した。
もちろん重力制御も切れるので艦内は無重力状態になる。
その証拠にミナトの髪の毛も宙に舞いだした。
これは相手のエネルギー反応を探知して位置を特定するパッシブセンサーに反応しなくなったことを意味していた。
あちらから能動的に電磁波やレーザー照射などの探査信号を発信してその反射で相手の位置を特定するアクティブセンサーを使用すれば、あるいは見つけられるかもしれないが・・・
ステルス性の高い現代兵器では効果が薄いだろうし、第一探査信号を送ることは自分の位置を相手に教えているのに等しい行為だ。
普段はパッシブセンサーに頼っている。
現にかんなづきは今もパッシブセンサーしか使用していない。
つまり、ナデシコが相転移エンジンを切るということは、かんなづきのレーダーから自分の姿を消し去る行為に他ならなかった・・・
追う側のかんなづきでは突然ナデシコの反応が消えて騒然としていた。
通信士「敵艦の反応が消えました!」
三郎太「なに!?」
秋山「なるほど・・・」
三郎太は驚くが秋山はナデシコが何を行ったか正確に悟った。
三郎太「どういうことですか?艦長」
秋山「エンジンを切って音なしの構えか・・・」
三郎太「エンジンを切る!?
それでは時空歪曲場も消えて丸裸状態では・・・」
信じられないように漏らす三郎太。
彼の用兵学の中にディストーションフィールドの展開を止めてまでエンジンを切るという行動はない。それは非常識以外の何者でもなかった。
そんな状態ではグラビティーブラストどころかミサイルの一発で撃沈されてしまう。
だが、秋山は相手の思いきりの良さに感心していた。
秋山「どうせ我らが跳躍砲の前には時空歪曲場も無意味だ。
ならば歪曲場を展開しなくても同じ事だろう。
この思い切りの良さ、相手の艦長はよほどの快男児と見える」
三郎太「ですが・・・」
秋山「危ないのはこちらの方だ。
今の撫子を見つけるにはアクティブセンサーを使っても難しいだろう。
それに引き替え、本艦は各機関が全開、あっちのパッシブセンサーにはこっちの位置がガンガン映っているはずだ。
気合い入れていかないと痛い目見るぞ!」
三郎太「確かに・・・」
秋山「ふふふ・・・久しぶりに血が騒ぐわ」
秋山はさも嬉しそうに言う。
これからユリカと秋山の知略を尽くした戦闘が開始されるのであった。
さて、秋山から快男児との賛辞を送られたユリカであるが・・・
ルリ「艦長、シートベルトはした方が良いですよ?」
ユリカ「そんなこと〜〜」
早く言ってよ〜〜」
ラピス「ユリカ、スカート、スカート」
ユリカ「見ちゃダメ〜〜!」
無重力になることを忘れていたユリカはおっぴろげながらブリッジ内をあちらこちら浮遊していた(笑)
エリナ「良いの?こんなのに命預けて・・・」
アキ『そう言われると自信が・・・(苦笑)』
どうフォローしたものか苦慮するアキであった。
ってことで後編に続きます。
取り敢えず前編ですので前回と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。
アキ「なんか微妙にユリカが絡んできたねぇ・・・」
−まぁ、一応正史ではヒロインですし、やっぱりアキト×ユリカでなくちゃという人もいますし
アキ「それは良いけど・・・まとめきれるのか?」
−何がですか?
アキ「だから極端にしすぎると、アキト×ルリじゃなければイヤ!とか、アキト×ユリカだとかまた言われるわよ?」
−それは大丈夫♪
アキ「大丈夫って?」
−アキさんがユリカを担当して、アキトがルリちゃんを担当すれば丸く収まるから♪
アキ「おい、こら!」
−あ、それじゃアキ×アキトにならなくなるから良くないか
アキ「だからそこから離れろと言ってるだろうが!!!(木連式柔炸裂!!)」
−・・・・・・というわけで後編をどうぞ。
ちなみに後編の内容とは微妙に違うので予めご了承下さい(笑)
Special Thanks!!
・Dahlia 様
・たかけん 様
・英 貴也 様
・AKF-11 様
・九条公人 様
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