−アバン−
時はTV本編のいつか
私達は「機動学園3年ナデシコ組」なんてセンスのないネーミングのRPGに熱中しておりました。
ただでさえ騒がしいナデシコクルーに転校生のアキトさんをぶち込めばどんな騒ぎになるか目に見えてるわけですが・・・
ちょっとアキトさんの体が心配です。
−3年ナデシコ組・ホームルーム−
最近のナデシコ組はホームルームに遅れてくる女子生徒の数が多かった。
しかもみんなヨレヨレである。
「ミスマルさん!
級長自ら遅れてどうするの?」
「すみません・・・」
彼女達はとある出来事にハマっていた。
そう、それは学園ラブコメの王道
「下駄箱へのラブレターの投函!!」
である。
−ルール説明−
「下駄箱へのラブレターの投函!!」
それは朝、学校に来て下駄箱を開けるといつの間にかラブレターが入っていた、というあれである。
某ヒカル女史のコレクションで学園モノを研究したゲームマスターのオモイカネがエスカレートするアキト争奪戦で崩れかけた秩序を取り戻すべく、アキトと交際するルールを策定してしまったのだ。
ルールは次の通りである。
出会い:下駄箱にラブレターを投函し、交際を申し込む。
まぁ、道でぶつかって運命的な出会いをする、という案もあるにはあったのだがあえなくボツになった。
『道でぶつかる』をユリカが先に実践してしまったのだ。
「初日から遅刻じゃマジやばいって感じだよね!」
とかいって何を参考にしたか知れないが、食パンくわえて登校途中の坂を走ったあげく、道の角で意中の男子とぶつかった拍子にパンチラを見せるという作戦をたてたのだ。
だが、実行するのはいいのだが、ぶつかった際に思いっきり鳩尾にタックルしてアキトに重傷を負わせたのはまずかった。
危険と見なされてあえなく廃案となったのだ。
それはともかくそれ以降を手早くまとめると以降のとおりとなる。
交際レベル1:交換日記
交際レベル2:一緒の登下校
交際レベル3:放課後の語らい
交際レベル4:一緒のクラブ活動
交際レベル5:休日のデート
交際レベル5:突然の不仲
交際レベル6:誤解の氷解
交際レベル7:初めてのキス
(中略。R指定となるので省略します)
最終日:アキトからの告白
・・・オモイカネ君、同○生やとき○モじゃないんだから、今時そんな昔の恋愛シミュレーションのような手順踏まないよ・・・。
まぁ、ともあれ現在は出会い編「下駄箱にラブレター」競技を実践中なのである。
(既に本来の目的を見失って競技になってたりする)
だが、どこかの漫画みたいにラブレターが下駄箱いっぱいにドカーと入っていたりはしない。それには理由がある。
みんな、自分が投函するとき既に投函してある他人のラブレターをスポイルするからである。
しかしそうなると、これがなかなか難しい作業となる。
アキトが学校に通う時刻は不定だ。スポイルされるのを恐れて投函を遅らせると先にアキトが登校してしまう。かといって早すぎるとスポイルされる危険性が高い。
このぎりぎりの時間を見極めるのが何より難しい。
そして多くの興味本位なだけの女子生徒をギブアップさせたのがそのペナルティーだった。
「スポイルされたラブレターは他の下駄箱に投函してもよい」
たとえばホウメイガールズのジュンコなどは冷やかし半分にこの競技に参加したのだが、スポイルされたラブレターを事もあろうにムネタケ提督の下駄箱に投函されてしまった。
それを聞いた彼女は恐怖にひきつった奇声を上げて卒倒し、ラブレターの中で書いた待ち合わせ場所に怖くて近づけなくなり、二度とこの競技に参加しなくなったという。
現在のところ、トップはなぜかルリ先生が独走、続いて根性にてユリカとメグミが続き、かろうじてリョーコとエリナ、イネス、サユリが首の皮一枚で繋がっていた。
ちなみにチャンスは1日一度きり。今日も今日とて女子生徒の真剣勝負が始まるのである。
・第2話 「下駄箱ラブレター」で行こう
−トップバッター:スバル・リョーコ−
「よっしゃ、一番乗り!!!
やっぱりこういうことはいの一番に限るよな!
下駄箱には誰のラブレターも入っていない。
うんうん!」
先手必勝、猪突猛進が信条のリョーコだが、絶対に競技の趣旨をわかっていない。
リョーコは懐から取り出した茶封筒(!)を取り出し、アキトの下駄箱に投函したのだった。
「こういうラブレターに見えない封筒に入れれば、これをラブレターと思う奴もいない。
よし!完璧!!」
・・・大丈夫?っていうかそもそも本命にすらラブレターとして読んでもらえないんじゃないの?
どこか根本的なことを理解していないリョーコであった・・・
−冷やかしその一:アマノ・ヒカル−
『お前の料理うまかった。
また食べたい。
食堂で食わせてくれ
by.リョーコ』
「相変わらず、リョーコのラブレターって萌えないのよね。」
ヒカルはリョーコのラブレターを眺めて苦笑した。
結局ヒカルが興味があるのは各人のラブレターに何があるのかであって、勝ち負けはあまり興味がなかった。
「私が少し萌え萌えになるように加筆してあげましょう!」
どんな内容になったかは皆さんご想像ください。
「んじゃ、私のお約束のラブレターね。」
ヒカルは自分のラブレターを投函して、リョーコのラブレターを別の人のところに持っていった
「ちょっと今週、提督にセクハラされちゃったのよね。リョーコにお仕置きしてもらいましょう!」
こうしてリョーコのラブレターはムネタケの下駄箱に投函された。
リョーコのラブレターはヒカルの復讐リストに沿って順次投函されるのであった。
−冷やかしそのニ:マキ・イズミ−
『今度、コミケに同人誌出すのでアシさん募集中!
バイト代は出来高払い&コミケの収入の売り上げしだいです!
ぜひ奮ってご参加ください!
by.ヒカル』
「はいはい、お手伝いします。」
イズミはヒカルの手紙をみて了解した。この二人、アキトをそっちのけなのでほとんどリスクはない。このところ三人娘の順番が決まっているのでヒカルのラブレター(?)はほとんどイズミへの定期連絡の場となっていた。
「あと、手伝いしてくれそうな人にお誘いをかけますか。」
特に別の人に投函する必要はなかったのだが、締め切り前の修羅場が予想されたのでイズミはヒカルのラブレター(?)をルリの下駄箱に投函した。
なお、この後ヒカルは人気漫画家への街道をひた走るのだが、その原動力になったのは魔法のようなトーンワークにあったと言われる。一部のマニアの間ではルリの携わった特定の作品のトーン貼りのすばらしさを称して、彼女のトーンワークの技巧を賞賛の念をこめて『ルリトーン』と呼ばれているのは有名な話である。
−所詮は普通の女の子:テラサキ・サユリ−
『ラブレター、やぶらレター・・・なんちって』
ヒュ〜〜〜
イズミのラブレターの内容のあまりの寒さに、思わず卒倒しそうになったサユリだが何とか意識を取り戻した。だが、止めればいいのにその続きを読んだのがまずかった。
『肩こりにはバラがよく効く、バラ・イブレター』
カン!カン!カン!
サユリの頭の中でテンカウントのゴングが鳴り響いた。真っ白に燃えつきて・・・。
結局サユリはアキトの下駄箱にラブレターを投函するのを忘れてしまった・・・。
−崖っぷち:エリナ・キンジョウ・ウォン−
「逃げちゃダメよ!
逃げちゃダメよ!
逃げちゃダメよ!
逃げちゃダメよ!」
都合二十数度、同じつぶやきを繰り返してエリナは自分を鼓舞した。
「大丈夫!アキト君の行動パターンは把握している。後、1分後にはアキト君は登校してくる。
私がラストのはずよ!!」
エリナの脳裏には今までスポイルされて別の人間に投函された後の結果が走馬灯のように流れた。
ジュンはまだマシだった。
ウリバタケは整備費の予算のことで喧々がくがくとした。
ゴート・ホーリーはひたすら真っ赤になっていて結構可愛かったっけ。ミナトの趣味がちょっとわかった。
プロスペクタの時は・・・よくわからなかった。
アカツキはやたらお尻を触ってきた。
一番嫌だったのは・・・
「ムネタケ提督の時はさすがに止めたくなったけど・・・でもこれで念願がかなうのよ」
そう、感慨にふけりながら、エリナはアキトの下駄箱に自分のラブレターを投函した。
そして物陰に隠れて彼が到着するのを待っていた。
彼女のリサーチ通り、アキトは校舎の門をくぐって時間通りに到着した。
「よし!」
エリナは勝利を確認した。しかし少し喜ぶのが早すぎたようだ。
アキトが下駄箱につくかどうかというタイミングでそれは起こった。
『3年ナデシコ組のテンカワ・アキト君、登校していたら至急職員室まで来てください。
ゴート・ホーリー先生がグランドでお呼びです。』
「あれ?なんだろう」
そういうとアキトは自分の下駄箱に近づかず、さっさとグランドに向かっていった。
「ちょっと!なんで!!」
エリナの絶叫が響いた。
その目の前をメグミが横切った。
「メグミさん、さっきの放送、まさかあなたが!!」
「ダメですよ、エリナさん。運は自分で引き込まなきゃ。
だからいつまでも崖っぷちなんですよ?」
メグミの捨てぜりふに思いっきり歯ぎしりするエリナであった・・・。
−猛追中:メグミ・レイナード−
メグミは全ての手を打った。アキトの行動パターンを調べつくし、自分と同じ考えのエリナを放送部という立場を利用して撃破した。
後はアキトがもうすぐ帰ってくるので、それに合わせてラブレターを投函すればよいだけだった。
「これで私の勝ちです!」
メグミは校庭からアキトの姿を見止めると自分の勝利を確信した。
「おかしいなぁ、ゴート先生何の用事もないって、誰の悪戯だろう?」
アキトは疑問に思いながらも自分の下駄箱に近づいていった。
残り5メートル!
残り4メートル、3メートル、2メートル
「よし、アキトさんは私のものよ!!」
メグミはガッツポーズを取った。
メグミの勝利の雄叫びが響いた。だが、・・・
「遅刻!遅刻!遅刻!遅刻!遅刻!遅刻!遅刻!遅刻!遅刻!遅刻!遅刻!」
それはあらぬ方向から響いた黄色い怒号によってかき消された。
ドォォォォォン!!!
「あ〜れ〜!!」
校庭から爆走して来たユリカはアキトを突き飛ばすと、ユリカはアキトの下駄箱の前で器用に止まってみせた。
「はぁはぁ、いやぁ思わず寝坊しちゃった!
アキトがつく前になんとか間に合って良かった良かった!」
「あ・・・・・」
メグミの野望は理不尽爆発娘ユリカによってもろくも崩れ去った・・・。
−悪運だけを味方につけて:ミスマル・ユリカ−
「ふんふんふん♪」
アキトをしばらく気絶させておいて、ユリカは鼻歌混じりに懐からラブレターを取り出した。
「やぁ、思いの丈を綴っていたら朝までかかっちゃった。てへ♪」
そういいながら厚さ3センチの封筒を取り出した。
・・・便箋何枚分なんだろう・・・
「んー、誰のラブレターかわからないけど・・・ポイしちゃいましょう!」
そう言ってユリカは何の罪悪感もなくメグミのラブレターを無造作に放り投げた。
その後、そのラブレターは通りがかった猫に匂いをかがれたが嫌がられ、犬がおしっこを引っかけていき、カラスが加えて焼却場へ運んでいった・・・。
メグミの殺気が向こうから起ったが、厚顔無恥のユリカがそれに気づくほど気が利いているはずもなかった。
「アキト、私の愛を受け止めてね!!」
ユリカはルンルンで結果も見ずに帰っていった。
彼女にとってラブレターを出せたこと自身で満足だったようだった。邪魔されたメグミが浮かばれなかった。
−説明しましょう:イネス・フレサンジュ−
「まだまだ甘いようね、艦長?」
イネスはほくそ笑んでいた。
「説明しましょう。私がなぜ余裕なのかを」
「誰も頼んでませんけど。」
誰も聞いていないのにやる気満々で解説に勤しむイネス。
そんなイネスを横で見ていたメグミが冷静なツッコミを行なうが、イネスは完全に無視した。
「実はアキト君の下駄箱には早朝に仕掛けをしておきました。
内部はドンデン返しになっており、アキト君が下駄箱に手を触れた瞬間に仕掛けが作動し、あらかじめ私が用意しておいた下駄箱と刷り変わる手筈になっているのです。
今ユリカ嬢のラブレターの入っている下駄箱は無明の闇へ、そして私のラブレターの入った下駄箱が彼の目の前に現われるという寸法よ。
つまり、誰がどうあがこうとも最初から私の勝利は確定していたの」
「イネスさん、それって反則じゃないんですか?」
メグミはまたもや冷静なツッコミを行なった。
「誰も下駄箱に細工しちゃダメだってルール決めてないでしょ?」
流石に計算高いイネスは今までのチャレンジャーより一味もふた味も手ごわかった。
なぜユリカやメグミに負けているのか不思議である。
そうこうしているうちにアキトは気絶から復帰して自分の下駄箱に向かった。
「全くユリカのやつにも困ったもんだよなぁ〜〜」
とかいいながら下駄箱に手をかける。
イネスは勝利を確認した。
「あれ、今日も手紙が入ってる。」
アキトは下駄箱の中から手紙を取り出して中身を読んだ。
イネスとメグミが固唾を呑んで見守る中、アキトは手紙を読み終えると溜め息をついた。
「あぁ、今日もルリ先生から補習のお誘いだよ。参ったなぁ。」
「へ?」
イネスもメグミもあまりの結果に自分の耳を疑った・・・。
−勝利者:ホシノ・ルリ−
「皆さん、甘いですね。こんな初歩的なトリックに引っかかるなんて」
ルリは職員室で自分の手に持っているネームプレートを眺める。
それは『テンカワ・アキト』と書かれたネームプレートだった。
「何もテンカワ・アキトとかかれたネームプレートの場所がアキトさんの下駄箱とは限らないんですよ?」
ルリはクスっと笑う。
トリックはこうだ。
ルリは昨日の放課後にアキトの下駄箱のその隣の下駄箱のネームプレートを取り外しておき、ルリお手製のネームプレートと交換した。
そのネームプレートはある細工をしておいた。アキトが下駄箱に近づくまで別の名前を表示するようにしてあるハイテクなネームプレートであった。
つまりこうである。
アキトが来るまでは本来のアキトの下駄箱のネームプレートは隣の人の名前、そしてその隣の人の下駄箱のネームプレートがアキトの名前を表示していたのだ。
結局、みんなそのネームプレートだけをみてアキトの下駄箱だと判断していたので、全員赤の他人の下駄箱にラブレターを投函することに血道をあげていたということになる。
「皆さんも気づいていないようですので、もう少しこのトリックで行けそうですね。」
他の人達はルリがアキトを補習に誘う口実がないときだけ成功していたのだ。
みんなはルリの手のひらで踊っていたといえる。
今日もルリはアキトとの二人っきりの補習を想像して準備に余念がなかった・・・。
ちゃんちゃん!
−ポストスプリクト−
というわけで不定期連載「学園物」で行こう!の第2話でした。
さすがに第1話だけでほったらかしにするのも何でしたので、突発的に思いついたネタを速効でまとめてみました。
どうでしたでしょうか?
というわけで、今回みたいに直接ナデシコ本編に絡んでなくてもOKなストーリにするつもりです。
そればかりか、学園物なら他の作品のネタを借りてくることすらします。
そんな作品方針ですけど、気に入られたら本編共々よろしくお願いします。
あと、切実にネタプリーズ中です(苦笑)
では!