アバン


綻びは何処にでもある。
慢心と過信と功名心と
私達がどれだけ細い綱の上を歩いているか知りもしないで
私達は無邪気に踊り続けていた。

滅びとは誰の上にも平等に定められたものならば
戦いとはどちらかより多くミスをしたものが滅びるのが必定なのですから。

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



ボソンアウト地点


ナデシコ艦隊は敵の策略によりハッキングを受けた。対応に追われたルリの戦略的な機能が事実上停止したとみるや、ユリカはボソンジャンプによる撤収を決断、即時にこれを実行した。
そしてその対応は一見うまく行ったに見えた。

だが・・・・・・

「まだです!!」
「え?」
ルリの緊迫した声に一同が目を丸くした。
「まだ、リンクが切れていません!
 来ますよ!!」
ルリは警告を発し、ユキナは慌ててコンソールにかじりついた。

「ボース粒子増大!多数です!!」
「なに!?」
ユキナの報告に全員が仰天した。

あり得ない。
確かにナデシコはB級ジャンパーでは跳躍できない長距離をジャンプしたのだから。

しかし彼らの眼前にはボソンのキラメキを伴って多数の機影が実体化しだしたのだ。

夜鳴鳥・・・ナイチンゲール

そしてその後ろには戦艦、駆逐艦など次々とジャンプアウトしてきたのだった・・・。

その瞬間、ナデシコの利点はすべて剥ぎ取られた。
不敗神話が崩壊した瞬間であった・・・。



ナデシコC・ブリッジ


「そんな!信じられん!!」
あのゴートがうめくように叫んだ。その叫びはみんなの意見を代弁していた。
「うそ〜!どうしてついてこれるの?」
ミナトが泣きそうに叫んだ。
ユキナなどはまだなんとか冷静に行動できているが、みんなの動揺が全体に広がるのは必定だった。

「皆さん落ち着いて下さい。
 もう一度ジャンプします。」
動揺が全艦に広がる前に落ち着いた声でユリカが指示した。

そう、これは偶然かもしれない。ならば相手の予想しようのない長距離をジャンプしてみよう、
ユリカはそうみんなを落ち着けるように言った。

そういった後のユリカはさすがに素早かった。ウインドウを開いてイネスを呼び出す。
「っていうことですので
 イネスさん、もう一度お願いします。」
『わかったわ』
ユリカはわざわざウインクまでして念を押すようにそう言った。
イネスもその意図を正確に理解したようだ。

「それでは全艦ボソンジャンプに入ります!!」
「了解」
ユリカの指示にラピスはもう一度復唱した。



ナイチンゲール・コックピット


「何度やっても一緒だ!
 イメージ伝達トレーサー動作開始!」
『了解!』
西條は再度母艦に対して指示を送った。

二度目のおいかけっこ、その結果がどのようになったかは説明するまでもないであろう・・・



Nadesico Second Revenge

Chapter19 抜かれた牙



次のジャンプアウト地点


ナデシコC、ナデシコBそれにユーチャリスの三隻は次の地点にジャンプアウトした。
「ジャンプアウトを完了しました。
 付近に敵影を確認できません。」
「リンクが切れていません。哨戒作業は続行して下さい。」
ユキナの報告にもルリは気を緩めずに答えた。

そしてその危惧はすぐ形をなして現れた。

「ボソンアウト反応多数です!!」
ユキナの悲鳴のような声が辺りに響いた。
それはわずかではあるがささやかな希望が砕かれたことに対する悲痛な思いであった。



ナデシコC・ブリッジ


「むにゅう〜〜」
ユリカは少し頭を抱えて唸った。あまり考えたくないことだが、たとえそれが偶然の産物だろうが二度起こればそれは立派な必然である。

敵は少なくともボソンジャンプにて自分たちを追いかけてこれるだけの技術を持つ。
少なくともそのように対応しなければ今後の危険度は増すのだ。

「それで〜イネスさん。何かわかりました?」
『ちょっと待っててね!
 わかりやすく、簡単に、コンパクトに説明するわね!!』
先ほどのナイチンゲールの時には説明役をサリナに取られて拗ねていたイネスは、今度ばかりは自分ので番だとばかりに俄然張り切っていた。

「あはははは、手短にお願いします・・・」
ユリカが苦笑気味に答えたがイネスは聞いている風ではなかった・・・。



元祖なぜなにナデシコ


さて、敵がなぜボソンジャンプが出来たか説明する前に今一度ボソンジャンプがどういうプロセスで実行させるかおさらいしてみましょう。

まずボソンジャンプを行なう為には
1.ジャンプフィールドの形成
2.行き先イメージの伝達
3.ジャンプフィールドのボソン・フェルミオン変換の起動
4.ジャンプアウト時のフェルミオン・ボソン変換のナビゲート
となります。
この内、

1に関してはA級ジャンパーはCCに対して意識を集中するだけでジャンプフィールドを生成することができますが、実は技術的には機械的に発生させる事が可能です。
CCは高エネルギー体(例えば高出力のディストーションフィールド)に接触させるだけで発生可能な為にジンタイプのような相転移エンジンを実装した機体かCC組成のメインフレームを持った機動兵器であれば発生可能となっています。

次に3、4に関しては基本的にはB級ジャンパーにて実行可能です。
このボソンからフェルミオンへの変換は
・・・え?そんなところは不要?
どうせ聞いてもわからない?
・・・ここからがいいところなのに・・・
まぁいいわ。
だからチューリップ間、つまりヒサゴプランのような仕組みがあればB級ジャンパーにでもジャンプできる事になります。

んで一番難しいのが2の行き先のイメージングです。
これは具体的には行き先のイメージを距離、時間、場所のデータに変換して遺跡演算装置に伝達するプロセスに他なりません。
この内、後者の遺跡へのデータ伝送はB級ジャンパーでも可能なのですが、前者の行き先のイメージデータの変換が一筋縄では行かないのです。

人類が持つイメージデータを遺跡にインプットできるデータフォーマットに変換する公式は今のところ見つかっていません。
この処理はA級ジャンパーがもつナノマシーンが行なっているのです。しかしこの部分は現在の人類の技術ではブラックボックスの領域なのです。
私達はその上っ面のまねごとをして短距離ボソンジャンプを実現しているわけね。で、その方法は簡単に言えば大量の実験により導き出されたデータを元に作成された擬似方程式を用いる事でなりたっています。

例えば円ですが、これを直線で表現することは不可能です。ただこれを限りなく多角形と仮定する事によって疑似的に表現する事が可能です。

つまりは短距離のボソンジャンプもこれと同じ事で実現しているのです。
いいかげんだと思いますか?
でも世の中には統計によって得た擬似曲線から求めた係数によって物事を制御するっていう事例はいくらでもあるのよ。
例えば・・・
・・・え?いいから先に行け?
そんなこと悠長に聞いている時間はない?
・・・まぁいいわ。詳しく知りたければ大学にでも入りなおして。

んで、この擬似方程式は短距離の場合、時間や場所は大した影響はなく、ほぼ距離と方向というパラメータによって一定の結果を得られる事がわかりました。
ただこの短距離ボソンジャンプの問題点は距離が伸びればこの擬似方程式があてはまらなくなるの。
これは擬似方程式を構成している近似式のうちで短距離であれば無視できていた高次式が途端に重いバイアスとなってイメージデータ全体に影響するの。
この部分はもう実験により近似式を求めるという領域を飛び越して現在考えられるプロセッサでは演算できないという事が理論的に証明できているの。

「・・・長かったですね。本題に入るまでが。」

うるさいわね、提督!
さてさて、そこでお立ち会い!
つまりB級ジャンパーは遺跡にインプットするイメージデータさえあればジャンプすることは出来る。でもそのイメージデータを作成することはできない。
かたやA級ジャンパーはそのイメージデータを作成する事が出来る。
これがA級ジャンパーとB級ジャンパーの違い。
しかし、イメージデータ自身は、ジャンプする物質の形状、重量などの事象にほとんど影響を受けず、場所、距離及び方位に応じてほぼ一定のデータとなるの。

「ということは・・・」

そうよ、提督。
つまり、ほぼ同じ地点にいる2者がいたとすれば、どちらも同じイメージデータを遺跡に伝達すれば良いわけ。

だとすればなにも両者ともA級ジャンパーである必要はない。もし片方のイメージデータを保持、再生する方法があるとすれば・・・

「つまり、敵は私達のジャンプデータをそのままコピーしてジャンプして来た・・・という事ですか?」
ご名答、さすが提督!



再びナデシコC・ブリッジ


『ちなみにこの方法は大船団をボソンジャンプさせる際になるべく少ないA級ジャンパーで運用できないか?という研究の一つとして考えられていたものよ。
 私も計画の立案委員として参加した時にちらっと技術論文だけは読んだわ。一時はボソンジャンプ技術として現在のヒサゴプランで採用された技術とコンペで競っていた記憶があるわ。
 まぁいろいろな政治的思惑・・・例えばA級ジャンパーを特権階級に押し上げる・・・とかっていう理由で頓挫したし、なにより火星の後継者騒ぎで実現不可能な手法になっちゃったわけだけど・・・』
イネスが説明をそう締めくくり、溜め息をついた。
火星の後継者達が無謀なジャンパー実験を行なってA級ジャンパーを殺しまくらなければありえたかもしれない未来だったのだが・・・

「んじゃ、私達のイメージデータをトレースできるということは・・・」
「どこまで跳んで逃げても追っかけてこられるってことだね」
ミナトの溜め息に同じくユキナが溜め息で答えた。

確かにA級ジャンパーの利点は何時いかなる時でもどの地点にでもボソンジャンプできる事である。
しかし、敵にとってその全てが必要なわけではない。
敵に必要なのはナデシコ艦隊を追いかけられる事。
それだけである。

ならばその戦場にてナデシコ艦隊のジャンプイメージをトレースできればそれだけで目的を達することができるのである。
A級ジャンパーがほとんど存在しない現状では役に立たない技術だが、ことナデシコ艦隊を追跡するという一点に限っては非常に有効に作用する手法なのだ。

『で、トレースを防ぐ方法はないんですか?』
ケンが至極真っ当な質問をする。
『三つぐらい方法は考えられるわね。
 一つめはシステム掌握にて相手のシステムに干渉すること。
 二つめは相手がトレースするイメージデータに何らかのノイズをのせること
 三つめは敵のB級ジャンパーを全て駆逐すること』
『それってどれもダメじゃん』
そんなことが不可能な事ぐらい、リョーコにだってわかる。
システム掌握は今ルリの手が塞がっている以上出来ようハズもなく、イメージデータにノイズをのせるようなシステムなどこの戦闘の間に開発できるはずもない。
そして敵のB級ジャンパーの壊滅など、敵を全滅させるのとイコールなのだ。

「ってことは・・・」
『敵のボスメカを倒せってことか!』
サブロウタの呟きにリョーコがそう答えた。
結局は敵のプロテクトサーバーにして多分ハッキングをかけている機動兵器・・・あのナイチンゲールを倒さなければどうしようもないという事だ。

『よし、俺が倒してやろう!!』
そう、アキトは宣言するとブラックサレナで戦場に飛びたっていった。

「サレナカスタム隊も出撃してください・・・」
現状、ユリカにとってそれしか方法はなかった・・・。



戦闘空域


ユーチャリスから飛来するブラックサレナを見て西條はうれしそうに叫んだ。
「来い!黒百合!!」
ナイチンゲールは既に臨戦態勢だった。
対するブラックサレナは構わず突進する。
しかしその目の前にはナイチンゲールから射出されたバッタが立ちはだかった。

アキトはその邪魔者に対してハンドカノンを発射する。
バン!バン!バン!
ブラックサレナの放ったパレット弾はバッタの放つピンポイントのディストーションフィールドによって簡単に弾かれた。
そのピンポイントのディストーションフィールドはあの夜天光にも装備されていたものと同様の代物だ。あの時夜天光のフィールドはブラックサレナの渾身のハードナックルでしか突き破れなかった。
つまりはまずナイチンゲール本体に近づく為にはこのバッタ達を排除しなければならないらしい。

「面白い!そのつもりなら全てたたき壊してくれる!!」
アキトの顔は狂喜で歪んでいた。
そこにかつての心やさしいアキトの表情はなかった。
強き者、真に殺し合いを出来る相手に遭遇した時の表情だ。
ユリカやルリは否定したがるかもしれない。
しかしアキトの中には確かに戦いの、しかもギリギリの殺し合いに対して快感を求める心理が存在していた。
それは昔のアキトから変節したというものではない。

かつてアキトは北辰達との戦いに明け暮れていた。
それはあまりにも悲惨な戦いであった。
血で血を洗い、神経を擦り減らし、目を覆わんばかりの悲惨な現場を幾度となく目の当たりにし、その中で正気を保つのに、多分人の心はそれほど強くないのだろう。
アキトが精神の平衡を求めたのは北辰と同じく外道になる事であった。

だからアキトが闇の王子の姿振る舞いをしユリカたちを近づけないのも、それは彼女達に自分の過去を知られたくない、自分の境遇に巻き込みたくないという思いからだけではないのだ。
彼自身の心の何割かは確実に闇の王子のままなのだ。
そして今、彼の闇の王子の部分は激しく狂喜していたのだ。
真に命の限界をかけて戦える事を!!

ブラックサレナは右手のハンドカノンをしまって、代わりに小型のフィールドランサーであるハンドランサーを取り出した。対近距離、対フィールド用の兵器である。前回リョーコが使っていたものに比べればかなり小振りであるが、ディストーションフィールドに対抗するだけならこの大きさで十分だった。

ブラックサレナがナイチンゲールに突進すればその行く手を塞ぐようにバッタが躍り出る。
アキトはそこにハンドランサーを繰り出すが、そのバッタはすかさず後退する。
そしてそれと同時に別のバッタがアキトの死角から進入してきてミサイルを発射した。
ブラックサレナは後方に避けつつも左手のハンドカノンを3発発射し、正確にミサイル群の先頭に命中させた。
ミサイルは次々に誘爆し、それを逃れたミサイルも既にブラックサレナの動きを見失っていた。
そのとき既にブラックサレナは別のバッタに襲いかかる最中だったのだ。

そしてそういう応酬がしばらく続くことになる・・・。



ナデシコC・ブリッジ


「うう〜〜」
「意外にあのバッタさん強いですね」
ユリカが呻くのにルリは相づちを打つ。そうはいってもルリも敵のハッキングをさばくのに忙しくて悠長に観察している暇はない。
「あのテンカワがあれだけ頑張ってもまだ一機も落とせないか・・・」
ゴートが悩ましげにつぶやく。

「サリナさん・・・」
『なに?ミスマル・ユリカ』
「テンカワです!
 それはおいておくとして・・・あれってもうゲキガンタイプのダウンサイジングってレベルじゃないですよねぇ」
ユリカは溜め息混じりにメカ解説担当のサリナに尋ねた。
サリナも同様に答えた。
『そうね。私のさっきの解説は訂正するわ。
 アレはジンタイプのダウンサイジングっていう設計思想でつくられたものじゃないわね』
『じゃ、なんなんですか?』
ジュンが訝しげに尋ねた。
『あれはワンマンオペレーション艦のダウンサイジングね』
「「「「「ワンマンオペレーション艦!?」」」」」
一同は驚く。無理もないだろう。
『じゃ、皆さんに聞くけど、
 相転移エンジンを積んでいて、
 単独のボソンジャンプが出来て、
 ディストーションフィールドを張れて、
 グラビティーブラストを撃てて、
 バッタ型無人兵器を操れて、
 ハッキングアタックが出来る。
 それらをたった一人のパイロットによって操縦できる。
 さて、アレとユーチャリスの間にどれだけの違いがあって?』
至極分かり易い例えをサリナはした。その問いに誰もが頷いた。

『出来ない事といえば艦載機を詰めない事ぐらいね。
 機動兵器相手に格闘戦の出来るユーチャリス・・・すごい発想力ね。
 おまけに・・・』
「まだ何かあるんですか?」
ユリカは少し目を剥いた。
『あの機体、バッタを手足のように操ることによってあの殺し屋バカが編み出した戦法をあっさり真似てるし。』
「それって・・・!」
ゴートだけではない。他の皆も気がついたようだ。
『そう、アレは確かに『傀儡舞』
 いえ、その戦法のエッセンスを取り出してあの機動兵器なりにアレンジして取り入れている。あのコンビネーションはかつての夜天光と六連のそれに匹敵するかもね』
サリナは過去のブラックサレナの戦闘データを洗い出しながら今のナイチンゲールがそれに匹敵するのを感じた。
サリナは敵の側にきしくもネルガルの・・・いや自分と同じ発想を持つ天才技術者がいる事を恐ろしく感じ、同時に喜びもした。
だからサリナは始末が悪いとばかりに両手をあげる。

「んじゃ、早めにアキトにヘルプを出した方がいいよね・・・」
頭の痛い内容を聞いて、ユリカは前線指揮をしているテンクウ・ケンに打診した。



戦闘空域


「おっしゃることは了解しました。何とかします」
『お願い』
ユリカの連絡を聞いてケンはため息をついた。
確かに北辰の夜天光レベルならアキト一人ではきついだろう。決定的な状態になる前に誰かヘルプを出した方がいい。
しかし誰を出すかが問題だ。

自分たちも決して遊んでいるわけじゃない。火星の後継者達は前回の時と同じ戦法で臨んでいる。前回のこともあるので決して無茶をするつもりはないが、それでもこの中から一人か二人を抜くのはかなりつらい。
出来れば傀儡舞を知っている自分かサブロウタを向かわせたいところだが、両方の戦場のバランスやアキトとの連携を考えるとリョーコらの方がよいかもしれない。

『それにしてもらしくないなぁ・・・』
とケンは思う。
今のアキトは明らかに繊細さを欠いている。いつだったか自分とリョーコ達5人がかりで対戦したときに比べれば明らかに見劣りがした。
素人が見る分にはあまり違いがわからないだろうが、一度戦った自分ならわかる。
今の戦闘状況は明らかにアキトの何かが狂っているといえた。

「これは念のために私がヘルプに入った方がいいかもしれないかも・・・」
ケンがその判断を下す前に結果がすぐに表面化したのだ・・・。



ブラックサレナ・コックピット


アキトはそのとき自分の体の不調に戸惑っていた。
『何だ?どうしたっていうんだ!?』
すべての動作が自分の考えているものよりワンテンポ遅かった。
右手でバッタをなぎ払う。自分のイメージではそれで敵機にヒットするはずだった。しかし現実ではわずかの差でバッタたちはそれをすり抜けていった。

ドクン・・・

いやな予感がする。
『そんなはずはない。
 アレが起こるまでにはまだ十数時間余裕があるはずだ』
アキトはそう信じようとした。

ドクン・・・

しかし胸騒ぎはそのまま悪寒に形を変えていった。
『まだだ!
 今俺が抜けたら・・・』
そう思えば思うほどアキトは自分の体をコントロールできなくなっていく。

ドクン・・・

『警告:脳波パルス乱れています』
パイロットのヘルスケア用のアナライザーがしきりに警告を発していた。そのシグナルはアキト専用の警告パターン・・・

ドクン、ドクン・・・

『アキト、脳波が異常だよ!早く戻って!!』
「大丈夫だ・・・まだ戦える・・・」
ラピスが秘匿回線で警告してきたがアキトは拒否した。しかし、自分の出した声に自分のおかれている状況を理解せずにはおれなかった。

ナノマシーンのスタンピード(暴走)・・・・

『戻りなさい!アキト君!!』
『もう無理よ!止しなさい!!』
「まだだ!!」
エリナとイネスが同様に秘匿回線で通信してきたが、アキトは聞き入れなかった。
今自分が引けば機動兵器戦のパワーバランスは一気に崩れてしまう。そして自分という精神的支柱がなくなってしまったらその瓦解は加速度的に進む。
それだけはなんとしてでも避けなければなかった。

だが、そんな彼の思いにも関わらず・・・

ガクン!!!!!!!!

アキトの最初の発作が始まったその時、ブラックサレナは被弾した。



ナデシコC・ブリッジ


「アキト!!」
ユリカは悲鳴のように叫んだ。思わずルリ達も息をのむ。

『大したことはない・・・・
 が、すまない。戦線を離脱する・・・』
サウンドオンリーのウインドウが開き、アキトの声がそう告げた。
次の瞬間、ブラックサレナがボソンジャンプをして戦場から姿を消した。

「アキト、どうしたの!?」
『心配ないわ。ユーチャリスが収容した。
 安静にさせるから気にしないで』
エリナがすかさず回答する。
「気にしないでって・・・あ・・・」
この時点でナデシコCではユリカとルリだけがアキトの身に何が起こったか把握した。

「テンクウ少佐、アキトの抜けた穴に・・・」
『向かってます!!』
ユリカが指示する前にケンはサレナカスタムをナイチンゲールの元に差し向けていた。

が、なにぶんに分が悪い。
『でもケンさんにあの機動兵器が倒せるかしら・・・』
ユリカにはこの先アキトを欠いたサレナ部隊であのナイチンゲールを落とせるとはとうてい思えなかった。
しかし、システム掌握を封じられ、ボソンジャンプを無力化された今、それ以外にナデシコ艦隊が生き残る方法がないのも事実であった。

『何もこんなときにアキトが・・・あ!』
この瞬間、ユリカは天才的なひらめきを得た。
ナデシコ艦隊が九死に一生を得る作戦・・・思いつきはしたが、その作戦が同時に周りに与える影響の大きさに慄然とするユリカであった。



綻びの理由それとも救いか?


世の中にはIFがいくつもある。
例えばテンカワ夫妻が火星の後継者達に捕まらなければ?
火星の後継者達の決起もなかったかもしれない。
そう考えれば歴史は無限に空想することもできる。
しかし、歴史は常に一つの道筋をたどる。

だから、テンカワ・アキトは火星の後継者に捕まり、ナノマシーンの無残な実験を受けた。
だが、後の戦史家達はそれでもIFを語る。

「もし、この時テンカワ・アキトがナノマシーンのスタンピード(暴走)を引き起こさなければどうなっていたであろうか?」

それは誰にもわからない。
あるいは西條の思惑通り物量戦で押し切られていたかもしれないし、あるいはアキトが西條を討ち取っていたかもしれない。
そして後の結果を知っているだけに戦史家達は余計夢想せざるをえないのだ。
『そちらのほうが両者にとってより幸福だったかもしれない』・・・と。

しかし歴史はそれを選択しなかった。
だから悪夢は人々を巻き込んだ。
テンカワ・アキト、西條数馬、テンクウ・ケン・・・彼等当事者だけではなく全ての人を巻き込んで・・・

See you next chapter...



ポストスプリクト


ってことで激闘編第2弾の中盤はどのような感じでしたでしょうか?
いやぁ、燃える展開ですねぇ(って自分で言うかオイ!)

今回多少説明調な文章が多くなってすみません。もう少しシチュエーションで多くを理解させる文章が必要なのでしょうが・・・力不足ですね。

しかしアキトも活躍するかと思った瞬間リタイヤするし(苦笑)

次回も激闘が続きますのでお楽しみに〜〜
では!


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