−アバン−


まぁ、一応ナデシコ艦隊も軍隊なわけで、提督自ら「アキト!アキト!」と騒いでるのもそれなりに問題ありなわけで。

天才と何とかは紙一重って言いますが、
ユリカさんの言動って、他の人にはやっぱりアキトさん愛しさに見えるんでしょうねぇ。
私はなまじユリカさんの考えが読めるだけに複雑な気分です。

それって、私もバカに見えてるってことなんでしょうか?


ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく


−ナデシコC・ブリッジ−


「どうしてテンカワ・アキトにこだわるんですか!!」
「だってアキトの活躍が見たいから♪」
「「「「「はぁ?」」」」」
バッタの大群に襲われている情勢での放ったユリカの発言は一同も呆れさせるに十分だった。

「提督!!」
さすがのサブロウタも提督に対する不信感を露にしていた。この期に及んで私情のみで動かれてはたまったものではない。
「だって敵さんもアキトの活躍を見たいでしょうし」
「敵なんて関係ないでしょう!!」
サブロウタの言葉はみんなの意見でもあった。そんな不信感が破裂しそうなタイミングでユリカは狙いをすましたようにこう言った。

「それにこの状況でアキトが出撃してないのは不自然でしょう?」
「え?」
意表を突かれたユリカの発言にサブロウタは虚を突かれた。
「敵にしてみれば五分以上に攻め勝っていると思ってる。
 ナデシコとしてはこの窮地を挽回するのにはシステム掌握か、ブラックサレナの投入しかないと考えている。
 この状況下で格下のエステバリスを2体出した程度ではどう思われる?」
「ええっと・・・」
ユリカに諭されてサブロウタは初めて事の次第を検討しだした。

「オレなら戦力温存と見ます・・・」
少し頭が冷えてきたのか、サブロウタは冷静になって答えた。
「そう、窮地にも関わらずブラックサレナを投入しない。
 それは最後の切り札システム掌握を温存していると思わせる。
 で、私たちはそう思わせておきたいの?」

そこまで言われればいくらサブロウタでもわかった。
ユリカの真意、それは先のハーリーが行ったシステム掌握がナデシコの限界であると敵に誤認させておきたいのだ。
だが、ここで兵力を温存していると思われてしまえば、それは真実味を持たない。

「なるほど、確かにシステム掌握が失敗しているのに戦力を温存しているのは不自然ですね。」
ケンが一同に理解できるようにか、そうつぶやいた。

「というわけです。
 アキト、出撃お願い!」
『断る。第一それはお前の過大評価だろ!』
ユリカの依頼をすげなく断ろうとするアキトだが、ユリカの悠然とした笑顔で続けた。
「アキトの自己評価はこの際関係ないよ。
 重要なのは敵がアキトのことをどう評価しているかなの。
 裏の世界では黒百合の名前に国が一つ傾くくらいの賞金が懸けられているのよ?」
『興味がないな』
これ以上はただの水掛け論、あるいは夕食のおかずでもめている夫婦そのものだった。

「第一ユーチャリスって全然戦ってないじゃないの。」
『仕方がない。ユーチャリスには奴らを倒す有効な手段がない。
 うちのバッタを出したら味方に打ち落とされるのが関の山だ。』
「だから、アキトがブラックサレナで・・・」
『だから断ると・・・』

『どっちでもいいからさっさと援軍を出しやがれ!!!!』
最大サイズのウインドウと最大音響でリョーコの怒鳴り声がブリッジに響き渡った。
そういえばエステバリス隊は今も外でバッタの大群と戦っているのだった。



Chapter7 夫婦を形作るもの



−海上・ナデシコ艦隊周囲−


「くそ!雲霞の如く出てきやがって、きりがない!」
「ホントホント、あたしなんかそろそろ残弾が心許なくなってきたよ・・・」
「あ・たま数も足りないし・・・」
三人娘の愚痴がウインドウから次々響く。実際、艦隊の周りのバッタを排除するだけで手一杯でチューリップを破壊しに行くのに部隊をさく事もできない。が、チューリップを破壊しなければ延々とバッタは出現してくる。
三人娘などまだ良い方で、元ライオンズシックル隊のメンバーのエステはかなり消耗率が激しい。
早急に手を打たなければならない。


−ナデシコC・ブリッジ−


「と言うことなので、アキト、トットと出撃して下さい。」
あの有無を言わせないユリカスマイルを見せてユリカは再度アキトに依頼した。
『・・・わかった。ただし5分だ。それ以上は戦わん。
 それで何とかしろ。
 なら出撃してやる。』
5分であれだけの数のバッタをアキト一人で始末出来るわけはない。誰もがそう思っている。
その上でアキトはユリカを試しているのだ。
彼女が自分を指揮するに足るのか?・・・と。

「OK、それで十分!」
ユリカはいつもの自信満面の笑顔で答えた。


−海上・ナデシコ艦隊周囲−


「ユーチャリスより識別確認!」
「アキト君のお出ましだよ!」
イズミとヒカルの言葉につられてリョーコはあらぬ方向を見やる。複雑な気分だ。
彼女が戦場でその機体を見るのはこれで3回め。
1回めは敵として。
2回めは復讐の手助けをする為に
そして今回は味方として。

幽霊ロボット、闇の王子様の駆る死神・・・ブラックサレナ・・・

黒百合の名をいただく機動兵器はバッタの群れに飛び込んでいった。


−火星の後継者・西條の乗艦かんなづき−


「ふん、システム掌握は温存か?
 だが、その考えは浅はかだな。トラップ発動だ。」
西條の場に伏せていたカードをめくるように呟いた。
彼の目的・・・それは端から黒百合を破壊する事だった。


−海上・ナデシコ艦隊周囲−


「ちょっと待てよ」
リョーコは驚愕した。
今まで自分達に群がってたバッタ達が一斉にブラックサレナに襲いかかったのだ。


−ナデシコC・ブリッジ−


「あ、アキトさん!!」
ユキナはその光景を見て悲鳴を上げた。
雲霞の如くブラックサレナに群がるバッタの大群を見れば無理もない。
だが、そんなパニック寸前のブリッジの中でユリカの凛とした声が静かに響き渡った。

「ユキナちゃん、アキトが出撃してからの時間をカウントダウンして下さい。」
「え?」
「お願い!」
「わ、わかりました・・・4分40秒、39秒・・・」
一同は何をカウントダウンなど・・・と訝しがったが驚かせたのはさらにこの後のセリフだった。

「ミナトさん、微速後退。
 敵チューリップ及びバッタ達がグラビティーブラスト発射可能範囲に入るまで後退して下さい。」
「ええ、いいけどそれじゃ・・・」
ミナトはその言葉の意味を理解した。
「エステバリス隊はそのまま本艦隊の警護。
 まだこちらに取りついているバッタ達の排除をお願いします。
 ルリちゃん、残り3分でグラビティーブラスト発射準備。
 カウントゼロと同時に発射。
 OK?」
「・・・・わかりました。カウントゼロにてグラビティーブラスト発射します」
ルリはなるべく感情を出さないように復唱した。

『ちょっと待てよ!!』
リョーコはまたも最大音量で怒鳴った。
『アキトが奴らの罠にはまったんだぞ!
 それを見捨てて後退するのかよ!』
「まぁ、あり体に言えばそうです」
平然と答えるユリカ。絶句するリョーコ。

『それじゃお前、アキトを囮に・・・』
「そうですよ。リョーコさん」
ユリカはいつものユリカスマイルでいう。
『馬鹿野郎、いくらアキトが強いからって、しかもグラビティーブラストだぁ!!
 正気か!?』
「もちろん。アキトなら5分ぐらい全然持ちこたえられます。」
『ってそういう問題じゃないだろ!
 援護に向かう!』
「ダメですよ、リョーコさん。
 リョーコさんは艦隊の警護です。」
『なんで!』
「アキトが私を信頼してくれているからですよ」
この場に相応しくないユリカの言葉に驚くリョーコ。

「アキトは出撃すればこうなる事を最初からわかっていました。
 その上でアキトは私に5分の時間を与えてくれたんですよ。
 私を信頼してくれたから。
 だから私は信頼に答える義務があります。」
『それとこれとは・・・』
「大丈夫!アキトは私の王子様だから!!」
その言葉に一同は口を噤まざるを得なかった。こういう論法のユリカに何を言っても無駄なのは彼らが一番承知している事だった。


−海上・ブラックサレナ周囲−


一同はその光景を食い入るように見つめた。
ユキナのカウントダウンの声をBGMにして。

それはまるで芸術的な演舞のようである。
無数に飛び交うバッタの群れを全ての方角に眼がある様に軽やかにかわし、あるいはいなし、そして的確にハンドキャノンを当てていく。
絶対数が多いので危機的状況は変わらないのだがその戦いぶりに皆が見惚れていた。


−ナデシコC・ブリッジ それぞれの想い−


「残り3分」
ユキナの声が無情にブリッジに響いた・・・。
「グラビティーブラストチャージ開始!」
ルリの声の感情を込めない声が周りに響く。

『やっぱり強いわ』
サブロウタは素直にそう思う。自分じゃああいう風には出来ない。彼と自分の実力の差に愕然とするのもそうなのだが、旧ナデシコAのクルーは今の状況をある程度受け入れているということだ。
アキトを信頼しているのだろうか?
いや、より正確に言えばこういう時のユリカを信頼しているのだ。

でもルリは平気なのだろうか?
自分の養父であるテンカワ・アキトが敵の大群の中に取り囲まれているのを。
そしてその彼にグラビティーブラストを射掛けようとしているのを。
ポーカーフェイスの彼女の表情からは何もうかがい知れなかった。

そして提督であるテンカワ・ユリカを測りかねていた。
彼女は何故テンカワ・アキトがあの大群を相手に5分も保つと信じられるのだろう?
彼女は何故テンカワ・アキトが後3分であの大群から切り抜けられると信じているのだろう?
『夫婦なのだろう?ならなおさら・・・』
サブロウタには分からなかった。
それが夫婦なのか?それとももっと別の絆なのか?
彼にはそれが分からなかった・・・。

そんなサブロウタを横目にエリナが呟く。
『アキト君、無理しちゃって・・・
 それだけミスマルユリカを信頼してるってことか・・・
 妬けるな・・・』
彼女は別の意味で自分の時計を気にしていた・・・。

そしてルリもこっそり呟く。
『やっぱり私にはあの人に囮になってくれとは言えませんね。
 心臓に悪すぎます。』
ルリは改めて思う。アキトとユリカの互いの信頼の強さに。
『私はあの人をどのぐらい信じていられるのだろう?
 私はあの人にどのぐらい信じてもらえるのだろう?』
それがルリがあと一歩踏み出せない理由なのかもしれない。

「残り1分」
ユキナの声が無情にブリッジに響いた・・・。


−火星の後継者・西條の乗艦かんなづき−


「どうする、ナデシコ。
 黒百合を囮にして逃げるか?
 それとも黒百合もろともバッタを屠るか?
 解せんな・・・」
西條はユリカの真意を計りかねていた。


−ナデシコC・ブリッジ−


「残り30秒」
ユキナの声が無情にブリッジに響いた・・・。

「グラビティーブラスト、照準OK?」
「はい」
「正気ですか?まだテンカワ機が戦線を離脱してませんよ?」
サブロウタの声を無視したユリカは独り言のように呟いた。みんなに聞かせるように。

「敵の敗因はスタンドアローンの無人機に戦闘を任せたことです。」
「え?」
サブロウタは思わず聞き返す。
「彼らは決められた通りにしか行動しません。ブラックサレナが現れたら当然のごとく飛びかかる様にプログラムされている。
 もし人間が操縦していたなら、あるいは人間がコントロールしていたなら今の状態を不思議に思って警戒するでしょう。でも彼らは教わったとおりにしか動けない。
 だけど彼らはA級ジャンパーとの戦い方を教わっているのかしら?」
「あ・・・・」
サブロウタの呻き、それは一同の失念していたことでもあった。


「残り5,4,3,2,1・・・・」
『時間だ。
 ブラックサレナはこれにて戦線を離脱する』
ユキナの声に狙い澄ませたかのようなアキトの宣言。
そして・・・。
「ゼロ!」
「グラビティーブラスト発射」
ルリが発射を指示した瞬間、ブラックサレナはボソンのキラメキとともにその場を消え去った。


−火星の後継者・西條の乗艦かんなづき−


「な!」
西條はブラックサレナを見失って混乱したバッタ達が、その虚をつかれてチューリップもろともグラビティーブラストの一撃に飲み込まれたのを目の当たりにした。
そう、彼は忘れていたのだ。

A級ジャンパーを相手に戦うことがどういう事かを。
「MARTIAN SUCCESSOR」というものが如何に戦争の寵児であるかという事を。

「ははは!面白い!
 それでこそ倒しがいがあるというものだ!」
西條はそれだけ言うと部下に戦場を後にするように指示した。
所詮は小手調べ、本番はまだまだこれからだった。


−ユーチャリス・デッキ−


ボソンアウトして戻ってきたアキトを迎えたのは先ほどまでナデシコBにいたはずのイネスだった。
「お疲れさまアキト君・・・て言って上げたいけど
 駄目よ。もうすぐ例の時間なのに出撃なんかしちゃ!」
「・・・」
「大体、提督達には秘密にしておきたいって言い出したのはあなたよ!
 それを自分からバラしちゃう様なことして・・・」
無言のアキトをさらに言い募ろうとするイネスの服の裾を後ろからクイクイと引っ張る少女がいた。ラピスである。

「アキトをいじめちゃだめ。
 アキトはユリカのためにがんばった」
「・・・仕方がないわね。」
ラピスが必死にアキトを庇うのを見てイネスは苦笑を禁じ得なかった。

「はいはい、時間が押してるわよ。
 急いで急いで!」
「済まないな、ドクター。」
「はいはい、どうも。それよりもエリナ女史への言い訳を考えておいた方がいいんじゃないの?」
「・・・何かいいのはないか?」
「そのくらい自分で考えなさい」
イネスの軽口にアキトはかすかに笑った。だがその笑みはただイネスの気遣いに儀礼的に笑ったモノだ。でもそんな虚構の笑みではあるが今は無いよりマシだ・・・イネスはそう思うのだった。


−ナデシコC・ブリッジ−


「残存のバッタを排除後、エステバリス隊は帰投。周囲を警戒しつつこの空域を離脱します。」
「ルリちゃん、後でレポートあげといて。まだチューリップがあるかもしれないから、お父様に言ってこのあたりの海底を調べてもらいましょう。」
「わかりました。
 それとユリカさん、やっぱり今回の作戦は難度が高すぎましたね」
「だね。囮がA級ジャンパーじゃなきゃ出来ないのがネックね」
「ボソンジャンプで離脱しないとせっかく集めた敵が分散しちゃいますし」
「ルリちゃん、オモイカネの戦略基礎データには今回の作戦は優先度Cのデータとして打ち込んでおいて」
「はい。」
テキパキと残務処理と感想戦を行う二人を改めて見る一同。

今回の戦闘によって艦隊内にはユリカの作戦指揮に疑念を持つ者はいなくなった。
だがそれは少し後のお話。


「後、ユリカさん?アキトさんの出撃シーンの録画はばっちりでしたよ。」
「本当!?お願い、見せて見せて!!」
「ええ、今オモイカネに編集させています。私の部屋でゆっくり観ましょう」
「じゃ、ジュン君、そういうことであとお願い!!」
「じゃ、ハーリー君、そういうことであとお願い。」
「『えええええ!!」』
ジュンとハーリー、少ない出番はユリカとルリたちに雑用を押しつけられることで終わる宿命を持った男達であった。
雑用を二人に押しつけてさっさと退出するユリカとルリ。


当面のみんなの不安はルリがユリカ化しないか?ということであった・・・


−後日談−


その後、艦隊幹部による作戦会議はウインドウ通信によるものに変わった。
さすがに自分の艦を離れたテンクウ・ケンやアオイ・ジュン、それにエリナ・キンジョウ・ウォンがナデシコCに足止めを食らって何もできなかったのが問題となったからだ。

「本当に役立たずでしたね。私たち。」
「うるさい!」
ケンの情けないツッコミに怒鳴りながら、エリナはアキトをどうお仕置きしようか思案中だった。


See you next chapter...


−ポストスプリクト−


Sencond Revengeのテーマストーリーの第一弾後編はいかがでしたでしょうか?
ネタはバレバレでしたよね?

ハードボイルドを目指していてもユリカを書いていたら、やっぱりこうなりましたね(笑)まぁ、ナデシコらしいといえばそうですが。
んで、アキトとユリカ以外の描写がおざなりになっているのに今気づいた私・・・(- -;)

当面はこんな感じでちびちびアキトが帰らない理由に近づきながらも、闇の王子様爆発のハードボイルドなストーリーをユリカとルリが健気で明るく元気よくそして少しお涙頂載みたいな感じで突き進む展開になろうかと思います。

では!



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