−アバン−
元ナデシコBの人々にすれば自分たちの船を追い出されたり、リタイヤされた人達にしゃしゃり出られたみたいな気がするわけで。
それでなくてもまじめな宇宙軍の皆さんに、ナデシコクルーをぶち込めば水と油なのは目に見えていたはずなのですが・・・
見落とし?見て見ぬフリ?確信犯?
なんか、テンクウ少佐には貧乏くじを引かせちゃったみたいで申し訳ないんですけど。
ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The
Missionの続編ですので
よろしく
−疼く夢−
夢に見る。昔の夢・・・
運命を分けた扉
生死を分けた扉
何気ない、それは戦場での日常
ただ、いつものようにその扉をくぐる
そして・・・
「わたしはまだ扉を選び続けなければならないのか?」
夜中に目を覚ましたフジタは自分が大量の冷や汗をかいているのにようやく気づいた
−ナデシコB・艦長室−
翌日、フジタ少尉とウリバタケはともに艦長室に呼ばれていた。昨日の騒ぎの処分を伝えるためにである。
「なんでオレまで・・・」
「貴様、艦長の前で失礼だよ」
お互いにいがみ合う二人。本心では互いの事を認めあっていても、面と向かうとこうなってしまう。
『これはちょっと荒療治が必要ですね・・・』
ケンは二人の様子を見ると心の中で作戦をA案からB案に移行した。
「デッキブラシ・・・?」
「それとこれ。」
「つなぎ?・・・それも清掃用の?」
「はい、ウリバタケさんは左手、フジタ少尉は右手を出してください。」
「「?」」
素直に手を差し出す二人に、ケンは素早くあるものをつけた。
ガチャリ!!
デッキブラシを持って清掃用のつなぎを着た二人の右手と左手にケンは手錠をかけたのだ。
二人が鎖でつながれている箇所をみてただ唖然としていた。
「艦長!て、手錠など!!」
「おい、何の冗談だよ!」
「冗談じゃありません。あなた方への処罰です。」
「これで何をしろと・・・?」
「ナデシコB全体の清掃です。
お二人には終わるまで手錠にて共同生活をしていただきます」
「「な、なに!!!!!」」
「はい!」
ケンは茶目っ気たっぷりに、それでいて真剣な瞳がそれが冗談ではないということを物語っていた。抵抗しても無駄だと判断したのか渋々従う二人。
だが、ケンはそこにもう一つの爆弾を落とした。
「ちなみにウリバタケさんが抜けている間の整備班長の代役をサリナ・ウォンさんに頼みましたのでそのつもりでお願いします」
『ハロー艦長、大任任せてくれてありがとう。ナデシコBを最強の戦艦にして上げるからね!!』
サリナがウインドウで一方的な挨拶をして通信を切った。
「ゲ!!!」
ウリバタケはその言葉に驚愕する。
「艦長、あいつはオレ以上にスペック至上主義者だぞ!!そんなやつに任せたらナデシコBが・・・」
「・・・」
フジタも血の気が引いた。事の重大さを理解したようだ。
「はい、そこでサリナさんレーダーです。」
「レーダー?」
ケンが二人に手渡したのはかのド○ゴ○レーダーそっくりな装置だった。
「掃除しながらサリナさんの行動を阻止して下さい。」
「あ、あ、あ・・・」
「がんばって掃除を早く終わらせられれば、それだけ早くサリナさんを解任できますので一生懸命お願いしますね。」
普段のくそまじめなケンからは想像もつかない、けれん味たっぷりの罰ゲームだった。ちなみにこのアイデアは彼が後ろ手に隠している「ユリカの航海日誌(全4巻)」という本からだということは内緒の話である
Chapter5 あれは「志した日々」の記憶
−相転移エンジン室−
「さてと、このスーパーユニットはすごいわよ。つけるだけで相転移エンジンの出力が200%(当社比)もあがるという画期的な・・・」
「そんなもん、あるかぁぁぁぁ!!!!」
スパコーン!!
どう見てもガラクタにしか見えない小さなユニットを手にエンジンの前でトリップしていたサレナをウリバタケは手にしたハリセンで思いっきりひっぱたいた。
一緒に引きずられていてついてきたフジタはさすがに年なのか、かなり肩で息をしていた。
「何をするのよ、天才の頭を!」
「そんな怪しげなもんをエンジンにつけようとするからだろう!!」
「怪しげなものじゃないわよ。このゴールドフィンガーはオーバークロッカー御用達のアイテムでエンジンの能力を極限まで絞り出せるという・・・」
スパコーン!!!
「絞り出さんでいい!!そりゃ、ただエンジンのリミットを解除するだけの代物だろうが!!!」
「だって性能一杯まで引き出してあげないと可哀想でしょう?」
「ど阿呆!マージン以上にエンジンをブン回してどうするつもりだ!!」
フジタは横で二人の会話を聞いていて、サリナという人物がどこまで本気なのか計りかねていた・・・。
−カタパルトデッキ−
サ「重力カタパルトを普段の三倍に・・・」
スパコーン!!
ウ「したら発進時にパイロットが気絶するわ!!!」
フ「三倍の速度で発進して何の意味があるんですか?」
−グラビティーブラスト発射口−
サ「グラビティーブラストの発射口を三倍に増設して多連式に・・・」
スパコーン!!
ウ「出来るほどエンジンの出力が持たんわ!!」
フ「それ以前に取り付ける場所がありませんよ」
−ディストーションブレード先端−
サ「ここにレールキャノンを装備すれば・・・」
スパコーン!!
ウ「ディストーションフィールドが張れなくなるだろう!!」
フ「というか発射の衝撃に耐えられるほどブレードの強度はありませんよ」
−ミサイル発射管−
サ「この発射管を光子魚雷が発射できるようにすれば・・・」
スパコーン!!
ウ「っつうか、そりゃ別のアニメだ!!」
フ「ナデシコの世界にそんな兵器はありませんよ」
−ナデシコB食堂−
「なぁ、お前、班長達間に合うと思うか?」
「間に合うほうにAランチ!!」
「じゃ、間に合わないほうにカツ丼!」
と言うわけで、あれから状況は徐々に変わりつつあった。
元ナデシコAクルーと旧ナデシコBクルーの間のわだかまりが溶けていっているようだった。
「んなもんじゃなくて、ただ俺達を肴に楽しんでるだけだよ」
とはウリバタケの言だが、確かにかくも馬鹿馬鹿しい追いかけっこはそれぞれのクルー同士のわだかまりすらも馬鹿馬鹿しい雰囲気にしていってしまっていた。
ケンの狙いは図に当たっていたと言える。
後は当人同士の問題だった・・・。
−疼く夢−
それはいつもと同じ敵襲、
彼ら工兵は防御壁のある耐ショックルームへ向かう。
あまりにも日常すぎて、扉はただ鍵がかかればそれで役目がすむものと勘違いしていた。
『そっちに行くな!』
夢の中の友に必死に呼びかける。だがそれはまるで繰り返される映画のようにいつもと同じ悪夢をなぞった。
彼らはまるで定時後にでも会うかのようにつかの間の別れの行う。
それが永久の別れとも知らずに・・・
バタン!
二つの扉はその親友達を永遠に分かった。
−ナデシコB格納庫−
格納庫には疲れ切った二人が寝そべっていた。時間は一応定時後である。
さすがのサリナも開発以外は定時以降は働かないようである。
定時の大半をサリナとの追いかけっこに終始する二人にとって唯一の休息と本来の彼らの清掃業務を行える時間なのだ。
疲れてふて寝するウリバタケを余所にフジタは目の前のエステバリスをまじまじと見惚れていた。
その機体の輝きは単に磨かれているというだけの理由ではないようだ。それは正しく調律された楽器が持つ美しさと似ていた。
『この機体は愛されている』
そう、かつて自分が手塩にかけたナデシコBのように・・・
「ウリバタケ班長、あなたはなぜこの船に乗っているのですか?」
「あん?」
フジタは唐突に尋ねた。
「なぜ?」
「なぜって・・・」
「だってこれだけ整備した機体ですら、傷つき、破壊される。
あなたは耐えられるのですか!?」
再度尋ねるフジタに訝しげながらも答えるウリバタケ。
「好きだからだよ。この人殺しの機械がさ・・・」
「好き?
好きならなおさら・・・」
ウリバタケにはフジタの焦燥感が痛いほどわかった。それは彼もかつて感じたことだからだ。
「こいつらは傷つき消え去る運命さ。でもそんなものを好きになっちまうのって理屈じゃないんだ」
「・・・」
「オレさぁ、昔逃げ出したことがあるんだよ、こいつらからさ・・・」
ウリバタケは遠い目をして語り始めた。忘れ得ぬ日々を・・・。
「そのころ、月との小競り合いで軍は整備の人間を民間人からも集めていた。
当時駆け出しだったオレには願ってもない話だった。
まぁ、金はなかったが、自分の技術に対する根拠のない自信だけは山ほどもっていたさ。
今思えば、かなり恥ずかしいがな。
んで、戦艦に乗って戦闘機を整備した。今思えば稚拙なもんだが、その当時はとしては十分及第点をとっていたと思う。
そんなある日だ。あれは起こったんだ・・・」
それはほんの些細なことだった。
何気ない日常、その日も当たり前のように戦闘が始まった。
そんなとき、あるパイロットの機体が電送系の故障のために使えなくなった。
急遽予備機を代替えに回すことにした。
だが、それを最後まで反対したのはウリバタケだった。
機動兵器はパイロットと機体の癖が合って初めて絶妙な能力を発揮する。出撃間際に未調整の機体をパイロットに与えるなど自殺行為に等しかった。
でもそれは戦況が許さなかった。
そして当のパイロットも
「オレもプロさ。ふつうに調整してくれていればちゃんと乗りこなせるさ」
といった。ウリバタケは10分だけ時間をもらって必死に彼の機体の癖を再現しようとしていた。
そして彼はその中途半端な機体で出撃していった・・・。
「それで・・・?」
「俺の待っていた滑走路には二度と帰ってこなかった・・・」
別にウリバタケのせいではない。事実そうであろうし、そう仲間にも励まされた。
でもウリバタケは逃げるように軍を去った。
「怖かった訳じゃないんだ。ただ・・・自分が愛した機体を、そしてそれを愛してくれたパイロットを失うのも耐えられなかったんだ・・・」
ズキン!! フジタの心が僅かに痛む。まるで古傷を傷みだしたように・・・。
「でもなぁ不思議なもんで、そうやってうそぶいては見てもやっぱり好きだって気持ちは誤魔化せなかった。だが引き返すにはもう遅かった。
狭いながらも自分の工場、そして女房、小さい息子
背負ったモノを捨ててまで、あの世界に戻る勇気は出なかった・・・」
でも、それはただ今の生活に対して不満を募らせるだけであった。
「そしていつしか、女房から逃げたい・・・そんな気持ちに自分の心の中ですり替えられていってしまった。別に女房が嫌いなわけじゃないのにな・・・。」
そんなある日、ネルガルからナデシコに乗らないかと誘いが来た。
たぶん、これが軍からの誘いだったらすぐに断っただろう。
でも、それは民間の運営する戦艦、そして乗り込むのはまだ二十にも満たない少年、少女達
「女房から逃げたい・・・ってのは多分口実で、
今の自分にならあの時と同じ場面に遭遇してもきっと後悔のしない仕事が出来る・・・
いや、今の自分の技術があればナデシコに乗る若い奴をあのパイロットみたいなしないで済むんじゃないか・・・ってね、思ったんだよ」
ウリバタケは少し照れ臭そうに昔話を終えた。
「わ、私は・・・」
フジタはしゃがれた声で呻く。
「私の時間はあの時からちっとも進んでいない。」
それだけ言うと押し黙ってしまった・・・。
−疼く夢−
何で助けられなかった!ちゃんと防火壁のドアさえ点検されていれば・・・!
それは残酷な運命。
両者に等しく降り注いだ爆風は二つの扉にも等しく降り注いだ。
だが、片方の部屋の者は生き残り、もう一方の部屋の者は灰すら残らなかった。
「気がつかなかったのは私の責任なのに、なぜ私だけが生き残っている!
なぜ!!」
フジタの心はその贖罪の念が総てであった。だからナデシコBが改造されるのも極端に恐れたのだ。再び自分の仲間を失う事に繋がるから・・・
でもそれももう終わり
もうこのナデシコは「私のナデシコ」ではないのだから・・・
−翌朝・同格納庫−
昨日の疲れもあったのか、二人とも泥の様に眠り、その朝は不覚にも寝坊してしまった。
「やべぇ!!サリナのやつ、今どこだ!!」
ウリバタケが慌ててサリナレーダーを取り出して探した。
「サリナさんはどこに?」
「いた!ミサイル発射管に向かっている!!」
そこで音声だけだがコミュニケが繋がった。
『ふふふ、やはりスペースオペラの王道はレーザー水爆でしょう!!』
・・・ってそれは銀○伝だって・・・
「核兵器は条約違反ですよ。そんなもの積んだと知れたら・・・」
「おい、ここからブレードのミサイル発射管までどのぐらいかかる?」
「20分ぐらいかと・・・」
「ゲ!ま、間に合わん!!」
ウリバタケはフジタの答えに頭を抱えてしゃがみこんだ。
だが、フジタはふとある事に気がついた。
「そうだ、近道がありますよ!」
「なに!」
いつもと違い、今度はフジタがウリバタケを引っ張るように走り出した。
−ディストーションブレード内−
さすがにフジタは防衛指揮官の役職上、ナデシコBの構造を熟知していた。通常は人が通らないようなミサイルの搬送路や吹き抜け、キャットウォークなどを駆使していた。
「すげぇショートカットだな・・・」
「ええ、ここらへんは軽量化の為にちょっと特殊な構造をしています」
走りながら説明するフジタ。自分が推奨した構造だ。
「って、待てよ・・・ここの構造おかしくないか?」
「なにがです?」
「なんでここのブロックが中空に出来てるんだ?
図面じゃここはモノコックになっているはずだぞ?」
「え?
それだと被弾時の亀裂がブレード全体に伝搬するので所々中空にして空間的なクッションを入れているんですよ。
確か最新の図面ではそうなっているはずですが・・・」
訝しげに、自分のコミュニケを開き、その図面を開いて見せ合う。
ウリバタケの図面 第15版、フジタの図面 第15.5版・・・
「・・・」
「・・・」
なるほど、どこかで行き違いになっていたようだ。
「ちょっとまて、その図面が正しいとなるとだな・・・・」
必死に何かを計算し始めるウリバタケ。
「かーーー!
そりゃ、この構造基礎でフィールドの出力をあげりゃ共振を起こして逆にフィールドが弱くなるわなぁ。それでか?フィールドが安定せずに、逆にその差分を補おうとしてジェネレータを圧迫してたのか!!
くそ!わからねぇはずだよ!」
「え?え?」
「フジタの旦那よぉ。こういう事は早く教えてくれなきゃ!」
「はい?」
「原因がわかったって言ってるんだよ、不調の原因が。
治るぜ、ナデシコBは」
「本当ですか!?」
「ああ」
「・・・」
それが嬉しいのかどうかよくわからない表情をフジタは浮かべた。それにウリバタケは気がついた。
「フジタの旦那よぉ、何を悩んでるのか知らないけれどさぁ・・・」
「え?」
「昔さぁ、俺達がナデシコを降ろされた時、俺達は第二の人生を歩むつもりだったんだ。
でもある一人の少女の言葉で舞い戻る事に決めた。
当たり前のたった一言でな・・・」
「なんと・・・?」
「『この船は私達の船です』ってな。
あのルリルリの言葉だよ。」
ハッとするフジタ。
当たり前の事
でも大切な事
そんな彼女の船だからこそ、彼はナデシコBを自分の船だと誇っていられたのだ。
「だからさぁ、アンタも別に遠慮する必要ないんだぜ?
言いたいことがあれば言えばいいし、したいことがあればすればいいんだ。
それが出来るのがナデシコなんだからよ。
この船は俺達の船なんだろ?」
ああ、なんてバカだったんだろう。
勝手に『私達のナデシコ』が終わっていたなんて思い込んで。
ナデシコが私の船かどうかなんて、私の気持ち次第なのに。
私が諦めなければナデシコは『私達のナデシコ』でありつづけるのに。
私はやっと自分がこの船に乗る理由を見つける事が出来た。
贖罪ではなく、本当の自分の意志として・・・。
「私は・・・まだこの船を『私達のナデシコ』でありつづけたい!」
「ならその前にあのメカフェチ女を止めないとな!!」
「ええ!!」
二人は共に走り出した・・・
まもなくミサイル発射管から盛大なハリセンの音が響いたのは言うまでもない。
−ナデシコB食堂−
その後、無事手錠のとれたウリバタケとフジタだが、やはりと言うかまたいがみ合っていた。
「だからそうじゃねぇだろう!!」
「いいえ違いますよ!!」
相も変わらず言い争いをしている二人をホウメイはやれやれと苦笑した。
「艦長へ・・・報告しなくても大丈夫か。」
彼らには互いに譲れないモノがある。それはこの船が自分の船という自負と誇りがあるから。でも同時に『俺達の船』でもある。
その思いがあるかぎりナデシコは彼らにとって『私達の船』でありつづけるであろう・・・。
そんな二人を影で見守りながら、テンクウ・ケンは苦笑していた。
「さて、悪役を引き受けて下さったサリナさんにどうやって謝ろう・・・」
サリナから怒りのメールが届いていた。やれ高級料理をオゴれだの、やれブランド品を貢げだの。
今から財布の中身が心配だった。
See you next chapter...
−ポストスプリクト−
ってなわけで、ギャグありシリアスありとナデシコらしい(?)お話しになったかと思います。(どこが?)
ウリバタケのキャラクターがTV版よりかっこよくなっていますが(TV4話を見た後にこれ読んだら違和感あるよねぇ・・・)、一応彼のほうがナデシコ流の先輩という事でご了承を。
後、サリナさんですが、Chapter2,3 だけを読まれた方は今回とのギャップを感じられると思いますが、Princess
of White を読まれた方は納得していただけると思います(笑)
ただ、本当はもっと凄い方ですのでそのうちどこかのChapterでフォローしようかと思っています。
最後に、次回からしばらくはようやくこの物語のメインテーマストーリーを始めていきたいと思います。アキト、ユリカ、そしてルリの活躍するお話しになると思いますのでご期待下さい。
では