−アバン−


まぁ、多少のトラブルはあったものの、取りあえずは始動し始めたナデシコ艦隊。
しかし、突貫工事も甚だしく、見切り発車もいいところ。

諸々の人々の感情に整理もつけず運営すれば
出るわ出るわの問題点。

「そのうち何とかなるでしょう」とはユリカさんの弁ですけど、
提督になっても成り行き任せなんだから・・・
なんか、ジュンさんのご苦労がわかった気がします。


ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく


−太平洋上演習航海:ナデシコB・医療室−


とりあえず改装を終えたナデシコBの最終調整を含め、ナデシコ艦隊は太平洋上空にて最終の演習を行っていた。
現在火星の後継者達の動きはさほど活発ではないが、そうのんびりもしていられない。ナデシコ艦隊は早急に実戦に耐えうる体制を整えて戦場に向かわないといけない。そんなわけで艦隊は皆大忙しだった。
そんな中、唯一暇なのが医療室のイネス・フレサンジュ博士。
怪我人もそれほど来るわけではなく、日がな一日レポート用紙の前で悪戦苦闘していた。

「古代火星文明プレートの解析結果」
その一行も進んでいないレポートと手の中のモノを見比べながら彼女はまたため息をついた。彼女の手の中にあるのはかつて彼女がアキトのボソンジャンプに巻き込まれたときに古代火星文明人に託された一枚の小さなプレートだった。

 イネスもその後いろいろと調査しているのだが、結局は火星の後継者騒ぎで中断を余儀なくされているのだった。
「なんか、これを調べようとするたびに良くないことが起こるのよね・・・」
例えばアキトの新婚旅行の時もそうだし、ついこの間の南雲による火星の後継者残党の反乱の時もそうだ。落ち着いてプレートを調べようとすると何か起こる。

「あんた、パンドラの箱?
 ・・・まぁ、そんなものを未来の人間に送りつけたりしないか・・・」
案外大したものではないかもしれない。
でも少なからぬ縁からか、イネスの心の襞にはプレートのことが引っかかって離れないのだ・・・。



Chapter4 不協和音



−同食堂−


 ナデシコ艦隊の整備班班長ウリバタケ・セイヤは不機嫌だった。
理由はピンからキリまである。
眼前の理由だけをとっさに挙げれば、まずはナデシコBの調子が悪いこと。

元々ワンマンオペレーションの試験戦艦ではあるのだけれども、今回の艦隊編成で三つの点が強化された。
・単独ボソンジャンプ能力の追加
・通常兵器の艤装強化
・システム掌握システム(妖精モード)の追加

 最初の二点はナデシコBの役割に関連する。ナデシコ艦隊の性質と艦隊内部での実戦闘能力を担うナデシコBとしては当然の帰着であろう。
目玉はナデシコB、Cそしてユーチャリスの三つのシステム掌握が可能な戦艦、三機のオモイカネ、そして三人のオペレータをシームレスに繋いで行う、「クラスタリングシステム掌握(通称スーパー妖精モード)」である。
この威力たるや、エリナ女史曰く
「ナデシコC単独のシステム掌握時の10倍の効率を発揮します!」
ということらしい。

まぁ、それはそれでいいのだが、ウリバタケ曰く
「こんなもん新造した方がよっぽどマシだ!!」
と宣われるぐらい、ほとんどやけくそ気味に改造したらしい。
予算はともかく時間がなかったのも災いしたのか、ナデシコBの既存のバランスをぶち壊してしまったらしい。一度バランスの崩れた機械を元に戻すのは結構難しいものなのだ。
ウリバタケが連日徹夜で調整しているにも関わらず、調整が一向に進まなかった。

「いい加減疲れた・・・」
「大変だねぇ」
くたびれ果ててテーブルに寝そべるウリバタケをホウメイが慰めた。
ちなみにホウメイはナデシコBとナデシコCの食堂のシェフを兼任しているが、ナデシコCは比較的乗員が少ないので別の人が担当している。

その人は以外や以外、あの元ホウメイガールズのサユリ嬢である。彼女だけは芸能界に馴染めなかったこともあるが、実は料理への夢を捨てきれず再びホウメイの店の門を叩いた次第だ。今回の一件で彼女も艦隊に乗り込むことになった。
 なお、これは全くの余談ではあるがルリ曰く
「一人抜ければみんな抜けてくる可能性があります。最悪メグミさんまでこられても困るので、アキトさんが帰ってきたことは箝口令をしきます!」
と他言無用を全クルーに申し渡したとか、しなかったとか。

 ともかく、話を元に戻すと現在ウリバタケは思うように作業が捗らないことに対する苛立ちでいっぱいだったのだ。だがそれは機械屋としてのウリバタケには常のこと、逆に彼はそれを楽しむ余裕も持っているはずだった。
だがそれも遠縁の理由がマイナス方向に作用させていた。

「ほら、例の旦那が来たよ」
「くはぁ・・・勘弁してくれよ」
ホウメイがとある人物が食堂に入ってくるのをウリバタケに告げると、彼はうんざりしたようにそっぽを向いた。
「ここでしたか。探しましたよ、ウリバタケ班長!!」
ウリバタケの嫌気の元凶、ナデシコB防衛指揮官フジタ少尉が慇懃な様子で訪ねてきた・・・。


−新なぜなにナデシコ・人物紹介編−


皆様、再びお会いいたしましたね。白百合改めルリです。
初代説明お姉さんには申し訳ありませんでしたが皆様からの強力なリクエストにより不定期ですが私がまた担当することになりました。
よろしくお願いします。
ぺこ!

人物紹介という事で、今回はナデシコB防衛指揮官フジタ少尉についてです。
ナデシコBの最年長クルー、40代半ばの壮年の士官です。
防衛指揮官という言葉はなじみが薄いですが、平たく言うと艦がダメージを受けた場合に行なう初期修理と被害者の救助、その他もろもろの混乱した艦内統制を行なう職務です。
ナデシコAの時代には主にジュンさんがこの任についていました。

まぁ、ジュンさんがやっていらっしゃったぐらいですから非常に地味かつ目立たない任務ですが、それだけに重要でしかも粘り強い忍耐力が必要です。
フジタ少尉はこの道のスペシャリストで地道な叩き上げの士官さんです。
彼のポリシーは「被害は日頃からの気配りによって最小限に防ぐ事が出来る」です。
それもあってナデシコBの竣工から携わってこられた方で、ナデシコBの艤装や艦内装備の配置に関しても彼の細かい配慮が行き届いております。
また、訓練艦であるナデシコBが若い新兵の多いこともあって、皆のお父さんとして慕われております。

ただ、真面目すぎるのが玉に傷で、火星会戦当初から宇宙軍に従軍されていらしたこともあって、ナデシコにはあまり良いイメージをお持ちで無い事も確か。
まぁ私が艦長の間はそうでもなかったんですけど・・・。

事の顛末は続きをどうぞ。


−再びナデシコB食堂−


「・・・アンタか」
「そうです。今日こそは聞いて頂きたい事が・・・」
「言わなくてもわかってるよ!」
フジタが勝手にしゃべろうとするのをウリバタケがウンザリしたように妨げた。
「グラビティーブラストの出力が安定しないのも、ミサイル発射時にブレードが歪みを発生するのもわかってる!
 でもなぁ、事には順序があるんだ。
 取り敢えずは相転移エンジンの調整と電装系の復旧が急務なんだ。
 もう少し待ってくれ!」
「そうは行きません。これでは艤装がすべて使えないばかりか、被弾した時の被害が別ブロックにまで波及します!」
お互いの主張がぶつかり合って両者は一歩も引かなかった。


ホウメイは苦笑しながら手元のコミュニケを開いてある人を呼び出した。
「艦長いる?例の二人、またおっぱじめたよ」


−ナデシコB・ブリッジ−

「・・・わかりました。今行きます・・・」
「艦長、またですか?」
「はい・・・またです」
ケンのため息にハーリーはやれやれと肩をすくめた。
彼ら二人の喧嘩はここ最近のナデシコBのお決まりのイベントになっている。

「止めに行って来ます。副提督、後をお願いします。」
「ああ、ご苦労様・・・」
ジュンは苦笑混じりに引き受けた。彼も昔似たような苦労をしたものだ。
「あ、僕も行きます。」
ハーリーが飛び上がるように立ち上がって現場に向かうケンの後を追った。
「ハーリー君・・・」
「ちょっと、フジタ少尉が心配で・・・」
旧ナデシコBのクルー時代に彼はフジタにお世話になっていたのだ。


−再び同食堂−


「いいか!取り敢えずこの艦が動かなきゃ意味無いだろ!
 その為にはまずエンジンが満足に動いて、コントロール出来なきゃ話にならんだろう!」
「いいえ、各部に無理を生じさせたまま動けるようになったって、使いものにならないのは目に見えています。今はもう一度各部のバランス調整を行ってからですねぇ・・・」
いつの間にか両サイドにギャラリーが張り付いて無責任に二人の言い争いを煽っていた。
ウリバタケ側は整備班、フジタ側は旧ナデシコBクルー達であった。

やっと到着したケンとハーリーが見たときには両者の陣営がそれぞれ野次りながら最高潮にエキサイトしていた。
「なんだと!!オレの仕事にケチを付けるのか!!」
「我々が手塩にかけて育てたナデシコBをここまではちゃめちゃにしたのはお前だろう!!」
「てめぇ、もう我慢がならねぇ!!」
「ほう、やるかね!」

「まずい!」
その光景を見たケンは人だかりをかき分けて二人を止めに入ろうとしたが時既に遅し。

バキ!!

「きゅ〜〜〜」
そこは腐っても軍人のフジタ。所詮は整備工あがりのウリバタケがどつき合いで勝てるはずもなかった。

「てめぇ、よくも班長を!!」
「何を!新参者が!!」
まさに一触即発

「やめなさい!!」
この騒然とした場面でよく通る整然とした声が一喝した。
一同シーンとする。

「フジタ少尉!」
「あ、艦長・・・」
血の気の上ったフジタだが、振り返ってケンの姿をみるや、一気に自分のしでかしたことに気がついて冷静になった。

「言いたいことはわかりますね?」
「はい・・・」
「どういう事情があるにせよ、
 整備班長をリタイヤさせ急務であるナデシコBの整備作業に遅延を発生させた事、
 本来制する側に回るべき士官が他のクルーの情緒を不必要に煽ったこと事、
 処罰に値します」
「はい・・・」
「フジタ少尉。
 とりあえず、ウリバタケさんを医療室に運びましょう。手伝って下さい。
 その後は自室にて謹慎、処罰は追って指示します」
「了解いたしました。」
本来まじめで分別もあるフジタである。たとえ若造だろうと自分に非があれば受け入れるだけの思量を持っている。


−同医療室−


「まぁ、久しぶりのお客さんねぇ」
イネスが少しうれしそうにウリバタケをベットに寝かせた。
「では、艦長。フジタ少尉、自室にて謹慎いたします!」
「はい」
そういって退室するフジタをハーリーはちらちら見ながらもじもじしていた。
「ハーリーくん、運ぶの手伝ってくれてありがとう」
ケンは何かモノ言いたげな表情をするハーリーをのぞき込んでそういった。
「あ、あの・・・」
「かまいませんよ、行っておあげなさい」
「あ、ありがとうございます!!」
うれしそうに会釈するとハーリーは飛び跳ねるようにフジタの後を追った。

「ドクター、すみませんが・・・」
「わかってるわよ。彼の愚痴を聞いてあげればいいんでしょ?」
「助かります。」
ケンはイネスの配慮に感謝した。気心の知れた昔の仲間にしか話せないことだってあるのだ。


−同フジタ自室−


ベットに黙って腰掛けているフジタを、ハーリーは机に椅子に座りながらチラチラと盗み見ていた。
フジタに出された特製ハーブティーだが、ハーリーはろくすっぽ飲んではいなかった。
『これじゃ、どっちが謹慎しているのかわからないな・・・』
フジタは心優しい少年士官を見ながら、そういう立場に置かせてしまった自分を情けなく思った。

「済みません、マキビ少尉。心配してもらって」
「いいえ、そんなお気づかいを・・・
 それにハーリーでいいですよ。」
「わかりました。ではプライベートではハーリー君と呼ばせてもらいます。」
「はい」

そしてフジタは少し自嘲気味に話し始めた。
「今日は馬鹿な事をやったと思ったでしょう?」
「いいえ、そんなことは・・・」
「いいんですよ。事実です。
 ウリバタケ班長がナデシコBを改造したのは私欲じゃなく、艦隊そのものがその役割をナデシコBに求めたからなんですよねぇ。
 そして彼自身、要求された作業を黙々とこなしている。ただその作業が思いのほか膨らんでいるだけなのに・・・」
「少尉・・・」
「わかっていたんですよ。彼はただ自分の仕事をこなしているだけなんです。
 ただ、私は今まで自分が築き上げてきたナデシコBが他人の手で変わってしまうのが堪えられなかっただけなんですよ。」
「そんなことありません。そんなこと・・・」
「ダメですね。何時からかこの艦を自分だけのモノみたいに勘違いしていたんですねぇ。
 多分、ナデシコCが完成した時点で、『私達のナデシコ』は終わっていたのに・・・」
ハーリーはそのフジタの何ともいえない悲しげな顔を黙って見守らざるを得なかった。


−同医療室−


「まったく、貴方らしくない。いい大人が今さら喧嘩?」
「ふん、いいじゃねぇかよ・・・」
ほっぺたをアイシングしているウリバタケにからかい半分でイネスが問うだ。

「その割には狸寝入り?
 さっき担ぎ込まれた時、実は気がついていたでしょう?」
「・・・」
「ひょっとしてノックアウトされた時もわざと気絶したフリをしたんじゃない?」
その半分バツの悪そうな、それでいて照れたような顔がそれを物語っていた。
ウリバタケも途中から自分達の喧嘩がヤバい状態になっているのは気がついていた。しかしその場の勢いで引くに引けなかった。
殴られた時に気をきかせて気絶したフリをしたおかげでそれ以上騒ぎは大きくならなかったが、起き上がっていたら周りを巻き込んで大乱闘になっていたかもしれない。

「まぁ、あいつの気持ちも分からなくはないんだ。
 最初にナデシコBを見た時さぁ、全くの無駄がないんだ。
 よく整備された機械ってのはこういうものだっていう見本みたいなものでさぁ。
 正直手を付けるのが惜しい戦艦だったさ。
 でもなぁ、ナデシコBの戦闘力強化は至上命題なんだよ。」
ウリバタケにもフジタの気持ちは分かっていた。
でもフジタの職務とウリバタケの職務ではやはり立場、価値観、そして目指す目標が違う。そしてなまじどちらも自分の仕事にプライドを持っているだけに妥協が出来なかったのだ。

「私が処分を下す立場じゃないからどうしろとは言って上げられないけど、まぁ愚痴ぐらいは聞いて上げるわよ。」
「はいはい」
ウリバタケはイネスの言葉に感謝しながら、連日の作業の疲れからか一寝入りすることにした。


−同医療室前廊下−


「ん・・・どちらの気持ちもわかるんですが・・・」
二人の気持ちをこっそり聞いたケンは医療室のドアの前でため息をついた。


−ナデシコBブリッジ−


「ということで、この一件、しばらく私に預けてもらえませんか?」
『いいよ〜ん!』
「・・・」
ウリバタケとフジタの一件を提督であるユリカに報告した答えがこれだった。ナデシコは基本的に放任主義だった。

『すみません、テンクウ少佐。本来なら私がしなければいけないことだったのですが・・・』
「いいえ、お二人はお忙しいのですから」
申し訳なさそうにするルリを気遣うケン。
目下ユリカとルリは敵の勢力分布の検討と戦略の練り込み、そして時には政治的策謀を弄するための事前準備等に大わらわだった。
ナデシコCを元ナデシコクルーで固めたのもそういう雑音を排するためであった。そのしわ寄せがナデシコBにくるのは致し方のないことだった。

『じゃ、申し訳ありませんけどよろしくお願いします』
「はい、お任せ下さい」

そういってナデシコCとの通信は切れたが、その言葉とは裏腹に事態はあまりよくない。
元ナデシコAクルーと旧ナデシコBクルーとの感情的な対立、それは今日のことでより鮮明となってしまったからだ。ケンにとっては頭の痛いことには変わりなかった。
「さて、どこから手を着けますかねぇ・・・」
新任艦長テンクウ・ケンの、それが最初の試練だった。


See you next chapter...


−ポストスプリクト−


今回登場のオリジナルキャラのフジタ少尉はsibutaniさんの持ちキャラです。
ご使用を許して頂いた事に改めて謝辞を述べさせて頂きます。
   >sibutaniさん、こんな感じの人で問題ないですか?

さて、ちょっとジミ目のお話しで、しかもちょっと前後編になってしまいましたが
群像劇をやっていく上でこういう話もないと、と思って書きました。

こういう脇役達のお話しも丹念に書いていければな、と考えております。

では、次回まで!



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