−アバン−
まぁ、壊れた夢にいつまでもしがみついている人はどこにでもいるわけですが、
それが『新たなる秩序』なんてはた迷惑な夢なんかだったりすると始末に負えないわけで・・・
今回もちゃっちゃと退場して貰いたいのですが。
ただ、気をつけないといけないのは二度目と三度目が同じとは限らない・・・ということで私たちって結構シビアな状態に置かれているのかもしれません。
でも、敵の反乱より、アキトさんを連れ戻す口実が出来たって喜んでるのも私達らしいというか何というか・・・
ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The
Missionの続編ですので
よろしく
−世界情勢−
第一次火星極冠事変、それがもたらした影響は計り知れなかった。
やっと地球と木連は共存することになったのに、全てをブチ壊したからだ。
いや、その後も両者は共栄している。・・・表面上は。
統合軍は多くの離反者を出し、大きな綱紀粛正を計ってもなおそのシンパが多数いるのではないかと常に白い目で見られている。そして全ての行動は監視の目にさらされ身動きがとれないでいる。
そのくせ宇宙軍の相対的な発言力の強化と、組織の瓦解を防ぐためかことさら強硬な態度をとるために周囲からは危険視されている。
統合軍の威信は失墜しているに等しい。
そして人ごとでないのが地球連邦の各国。
非主流派の国々が乗り込もうとした『火星の後継者』という船は出港直前で沈没。
無論、乗る前に起こしてしまった火種はすぐには消えることはなく、主流派と非主流はの間で疑心暗鬼のにらみ合いが続いた。
そして企業間の争いも然り。
凋落の一途かと思われたネルガルも先の事変で、たった一隻の戦艦にて事態を納めるという快挙をやってしまった以上、その発言力は急速に拡大していった。
あまつさえ、火星の後継者達を陰で支援していたクリムゾングループに対してその事実の開示を有形無形にちらつかせ、企業の行動力を巧みにそぎ落としていくことによって競争力を五分にまで引き戻してしまった。
そして極めつけは第二次火星極冠事変・・・南雲義政中佐とシャロン・ヴィードリンが引き起こした反乱を、やはり宇宙軍のナデシコCが鎮圧したことにより情勢は一気に彼らに傾いたといえる。
まるで沈む船から逃げ出すネズミの様に日和見を決め込んでいた国々は雪崩を打って宇宙軍とネルガルに傾いた。
そうなると火星の後継者に組した者たちへの世論の風当たりは冷たかった。
今まで政治的に伏せられていたその残虐な行為の数々も明らかにされていく。
統合軍はまるで火星の後継者達の隠れ蓑のような扱い
クリムゾングループの企業イメージの失墜による業績の悪化
そして非主流派の国々への制裁の要求
誰かが突っつけばまさに国家が二分してしまいそうな、緊迫した膠着状態の中、その事件は起こった。
まるで誰かが計算したかのようなタイミングで・・・。
−地球連邦・政治戦犯拘置所−
彼らは突如として現れてその場所を襲っていった。
目的がわからない。
ただの復讐なら建物全体を破壊すればよい。
要人を救い出すだけならなにも破壊活動まで起こす必要もない。
彼らはまるでその存在を誇示するように建物の各所を破壊していった。
特別監察房・被監察者:草壁春樹
それがその独房の主の名前だった。
既に役目を終えた人物、自分の理想がガラクタになってしまった彼にとって、この上はただ死刑の裁きを潔く受けるまでと残す日々を暮らしていた。
そんな彼にもその騒乱は聞こえてきていた。
「なんだ・・・こっちに向かっているのか?」
その騒乱は確実に近づいてくるのに草壁は気がついていた。
そして、目の前の壁が破壊され、眩しい光が暗い独房の中に差し込んだ。
「お迎えにあがりました、草壁総帥!」
逆光で見えないが巨躯なシルエット、そして精悍な声。
草壁の知っている人物だった。
「お前は・・・東郷・・・」
「はい、聖獣会、四獣が一つ白虎を守る東郷和正ですよ。」
その偉丈夫はそう告げた・・・
Chapter1 どこにでもある「正義」
−ネルガル・会長室−
「南雲さんの反乱で火星の後継者達の息の根は止まったんじゃないんですか?」
「そうそう、トカゲの尻尾きりみたいに」
ルリとユリカは身も蓋もない質問をアカツキにした。
「まぁ、そう見えたんだけど、思ったより根が深かったみたいでねぇ。
それだけ草壁のバックボーンは深かったという事だよ」
「でも、何故この時期に反乱なんです?
前回からさほど時間が経過していません。準備する時間も無かったと思いますが?」
ユリカが提督らしい分析をした質問をする。
「そうだと思ったんだがねぇ、どうも逆みたいなんだ」
「逆?」
「どうも彼らはこの緊迫した状態を利用したかったみたいなんだ」
ユリカの質問に思わせぶりな回答をするアカツキ。
「エントロピーの低い所で事態を変化させようとしても多大なエネルギーが必要だが、
エントロピーの一番高い所で起こせはそれは少しのエネルギーでも変化は大きい・・・ってところでしょか?」
ルリの発言に満足げに肯くアカツキだった・・・。
−再び地球連邦・政治戦犯拘置所−
「朱雀の南雲・・・案外使えませんでしたね。
せっかくの虎の子の残存兵力を消費してしまいましたし」
「・・・」
「まぁあなたが後継者として選ぶからには正義の熱血漢・・・っていうのが世論受けいいんでしょうが。それだけでは組織は転がりませんよ」
「わざわざそれを言う為に来たのか、東郷?」
「いえいえ、もちろんあなた様を救い出す為ですよ。
でなければわざわざ非主流派の国々の根回しを放り出してまで来やしませんよ」
抜け抜けという東郷。その真意を草壁は計りかねていた。
「それで、外の世界の状況は?」
「まぁ、最悪ですな。せっかく凋落寸前だったネルガルは息を吹き返しましたし、人々の信頼は統合軍から宇宙軍に移りました。非主流派の国々は主流派の国々の政治的圧力に抵抗する事もできず譲歩を拒みきれない状態。
頼みのクリムゾンは企業生命を断たれるか否かの瀬戸際」
「そこまで酷くなっていたのか?」
「ええ」
東郷は特に感慨もなくそう告げた。
−再びネルガル会長室−
「そこまで事態が悪化してるのってネルガルが裏で手を引いているわけじゃないですよね?」
ユリカの問いにアカツキは首を振った。
「それが不思議なんだよねぇ。
別にうちも君のところの父上もそんなに追い詰めていないはずさ。
急速な変化はどこかにひずみをもたらす。
ひずみは誰も望みはしない。
でも、日和見な奴らが急速にこちら側についた」
「何故ですか?」
「さぁ、それはルリ君のほうが詳しいんじゃないの?」
アカツキは黙って考え込むルリに回答を振った。
「ちょっといろいろなサイトを覗いていたのですが・・・
意図的に情報流布されているようです。
誰かまでは特定できませんでしたが」
「それでネルガルではと?」
「違いますか?」
「ルリ君、うちにそれをする利益は?」
「企業力の向上」
「確かに、君の言うことは一面で当たってるよ。
でも反面を考えてみようよ。」
アカツキはルリやユリカが政治的あるいは経済的な視点が抜け落ちている事を指摘した。
戦争の様にどちらかが勝ち、どちらかが負ければ良いという単純なシロモノでは無かった・・・。
−再び地球連邦・政治戦犯拘置所−
「南雲が敗れた理由って何だと思います?」
「・・・」
「あるいはあなたが敗れた理由でもいいですよ」
東郷の口調は徐々に辛辣になっていく。草壁は押し黙ったままだった。
「正義、理念、それらは確かにあった。でもそれだけじゃ戦争は出来ない。
私がせっかくクリムゾンや何やらに協力を取りつけても、くだらない理想やら何やらで無駄に消費してしまった。」
「正義がなければ人はついて来ない」
東郷の言い様に少し草壁は異を唱える。
「そう。人が戦争に赴く理由はいくつかあります。
正義もそうです。でもこれは少し動機が弱い。
だから我々が敗れたともいえます。
次に利益。それが金であったり、資源あるいは土地であったり、時には技術であったりします。
我々が火星の古代遺跡のために戦争を続けたのもそうでしょう?」
その問いを草壁に向ける。彼がかつて和平派を抑えた事実を差していた。
「だがこれも実は絶対な理由になりえない。
なぜなら利益のための戦争は必ず収支が発生します。
戦争により得られる利益と戦争によって失う損益・・・
その分水嶺にて人は理性を保つことができる。
しかし、絶対的に人々が戦争を行なう理由があるのです。
わかりますか?」
「・・・貴様・・・まさか!!」
草壁の驚愕の表情を東郷は満足げに見やった。
「そうですよ。生命の危機、自分の居場所の喪失
人はそこまで追い詰められて初めて命をかけて戦うことができる。
過去の革命において正義や理念で世界が変わった事なんてないんですよ。
どんなにインテリが社会機構の改革を叫ぼうとも、ただ明日のパンが食べれるかどうかで民衆は動く・・・
それが我々が2300年の歴史から学んだ事ですよ」
「それで貴様は情勢を意図的に切迫させたというのか!」
「ええ、幸い南雲のバカがケチな反乱を起こしてくれたおかげで仕事はやり易かったですよ。
ちょっと噂を流布するだけで面白いように情勢が転がってくれる。
まぁ、我々のことを唯の政治の道具やゲームのコマと思っていたような輩にはちょうどいい勉強になったでしょう。」
「貴様、自分が何をやっているのかわかってるのか!!」
東郷は不敵に笑っていた。事態の重み、それが彼にわかっているのか?
いや、わかっているからこそ、そこまでしたのだ。
−再びネルガル会長室−
「なるほど、敵がいなくなっては兵器は売れない。どちらかが滅んでもらっては兵器屋さんは困るというわけですね」
「ルリ君、身も蓋もないよ。せめて穏やかに軟着陸・・・っていって欲しいね」
「でも蛇の生殺しなんでしょ?」
「ユリカ君、君がいうかい、そういうこと?」
「そうですよ、ユリカさん」
「???」
ユリカはナデシコ時代にアキトにしていた所行に何の自覚もなかった・・・。
−再び地球連邦・政治戦犯拘置所−
「わかってますよ。国家を二つに分けての消耗戦。
どちらかが焦土になるまでの徹底的な戦争。
その為にもクリムゾンや統合軍には腹をくくってもらわなければなりません」
「新たなる秩序とはそのような犠牲の上につくられるものではない!!」
「奇弁ですな。
では一つ質問させて頂きましょう。
あなたは白鳥九十九大佐に何をなさいました?」
「!!」
忘れていた過去を思い出す草壁。そしてそれと同時に東郷は懐から取り出した銃を草壁の額に押しつける。
「私があの当時白鳥大佐の直属の部下だったのを覚えてらっしゃいますか?」
「ああ・・・」
「私も見ていたのですよ。あの会見場での暗殺の場面を」
「貴様、その復讐か!」
「いえいえ、白鳥大佐を慕っていたのは確かですが、それ以上の感情はありません。
ただ私の中の正義が一つ壊れた瞬間ではありましたがね。」
「・・・」
「私にとってはの正義・・・『味方を失わない為に戦う』
それが確かに壊れた瞬間でした。
ああ、正義の為なら味方を犠牲にしてもよいのだ・・・とね。
歯止めがなくなった人間の転がるのは早いですねぇ。戦いに勝つ為なら何の躊躇も必要なくなりました。
だから私も見習わせていただく事にしましたよ」
「・・・私をどうするつもりだ?」
頬を伝う冷や汗を感じながらそれでも草壁は必死に抗した。
「もうじきネルガルの犬もここに来ます。
その時にあなたの死体が転がっていればどうなります?」
「・・・」
「あなたの死は聖戦のためのシンボルにさせていただきます。
構わないでしょ?あなたもかつて白鳥大佐をそうしたのですから」
「・・・因果応報か・・・」
「次は私かもしれません。ですから地獄で待っていてください」
次の瞬間、東郷は何の躊躇いもなく引き金を引いた・・・。
−数刻後・同場所−
「どうだ、黒百合・・・」
見るも無残に破壊された建物にやってきた月臣はその男に現場の状況を問うた。
黒いバイザーをした黒いづくめの男・・・黒百合と呼ばれたその人物は振り向いて静かに指差した。
それは見覚えのある顔の死体だった。
「遅かったか・・・」
「その様だな」
「どうだ、自分で殺したかったんじゃないのか、この男を」
「この男はルリちゃんが捕らえたんだ。
もうオレの獲物じゃない。それくらいの分別はある」
ナノマシーンのパターンがボウッと光るその顔を見れば、いくら月臣でもそれが強がりである事はすぐにわかった。
「それにしても奇遇だな。白虎を追いかけていたお前とここで会うとはな」
「それはこちらのセリフだよ、月臣。奴がここまで行動が早いとは思わなかった。」
「まぁな。草壁の保護が目的だったんだが・・・しかたない。
もう一つの目的だけでも果たしておこう」
そう言って月臣は懐から封筒を取り出して黒百合なる人物に手渡した。
「なんだ、これは?」
「バカ殿からの命令書だ」
「・・・」
「なんて書いてある?」
黒百合はざっと読み上げて舌打ちをした後、月臣の質問に忌々しげに答えた。
「『取り引き成立。手配を解く代わりに、嫁さんのところに戻れ』・・・だとさ」
「ふ、アカツキにしては頑張ったじゃないか」
「誰も頼んでない。」
憮然としたまま黒百合はその場を去った。月臣はその様子を見てかすかに微笑んだ。
この際、アキトがどう思おうが関係なかった。
『朱に交われば赤くなる』
たとえどんなに頑なな心だろうと『ナデシコ』はいとも容易く和らげてしまう。そんな不思議な空間なのだから。
だから月臣は表の世界に戻る彼にその言葉を送ったのだ。
後に第三次火星極冠事変と呼ばれる戦役はそんな事件から始まった。
−ポストスプリクト−
さて、こんなハードボイルドで始まるこの物語ですが、さてさてこのまま
ハードボイルドのまま行くのか?
それともナデシコらしくスチャラカになるのか?
先はほとんど決まっておりません。
よろしければ出したいキャラクター、エピソードなどなどアキト君のリハビリを助けてやって下さい。
では!