−アバン−

♪私を月まで連れてって
♪そして星の間で遊ばせて
♪木星と火星で飛び跳ねる私を見て

・・・なんて昔の歌があって、原曲はバラード調のジャズの名曲なんですけど
私達がやると何故か狂騒曲になるわけで・・・

まぁ、それが私達らしいといえば私達らしいんですが・・・
彼女たちに任せたのって・・・やっぱ失敗?


−元祖・なぜなにナデシコ−

「「3」」
「「2」」
「「1」」
「「ドカーン!!」」
「元祖なぜなにナデシコ」
なぜかクレヨン画でかかれたタイトルバックがお茶目である。
結局月ドックに向かうことはせずそのまま火星への道を選んだナデシコCだが、その航程の中で一同はナデシコC内の会議室の一室に集められてブリーフィングと称したイネス独演会に付き合わされていた。イネスは白衣になぜかベレー帽、ウリバタケとハーリーは黒子よろしくホワイトボードの脇に控えていた。
ちなみにサブロウタだけはブリッジにお留守番。
「みんなでブリッジ開けちゃまずいでしょ?」とは本人の談。

「こんにちは、お久しぶり、初めまして
 ナデシコ医療班ならびに科学班のイネス・フレサンジュです。
 政治、経済、道徳、娯楽、貞操ときたるボソンジャンプ時代到来伴う新たなる秩序を我が物にしようとするのが今回の彼らの真の目的。
 でも、なぜボソンジャンプで世界が変わるかというと・・・」
「あの〜質問なんですけど〜」
絶好調のイネス節に大胆不敵にも挙手をして妨げるユリカ

「なあに、艦長?」
「あの〜皆さんも同じこと考えてると思うんですけど・・・」
そこで一呼吸をおくユリカ
「イネスさん、あなた幽霊?」
「し、失礼ね!ちゃんと足だってあるわよ!!」
「「「おおお!!」」」
喜ぶ男性陣。イネスは勢いあまってそのおみ足を惜しげなく披露したからだ。

「じゃ、何で生きてるんだよ!」
思わず身を乗り出すリョーコ。
「悪かったわね、生きてて!
 わかったわ、説明して・・・」
『おっと、それは僕から説明しよう!』
「あ、落ち目の女たらし」
そう、ウインドウに現われたのは元大関スケ・・・じゃなくてネルガル会長のアカツキ・ナガレだった。

『いやぁ、耳が痛い!
 世間じゃA級戦犯だとかゴシップだとかうるさいよね』
「んなこたぁどうでいいんだ!!
 ロン毛1号、わけを説明しろ、わけを!!」
『1号って・・・あれ?リョーコ君。そういえば君って統合軍じゃなかったのかい?』
「そんな細かいことはどうでもいいんだ!」
リョーコも結構ご都合主義者だった・・・。

『要はアレだね。
 敵を欺くにはまず味方からってやつ。
 ホラホラ、テンカワ君もルリ君も奴らに誘拐されちゃったじゃない?
 ドクターの方は艦長の所のように戸籍の改竄程度じゃ誤魔化せないんで、一番有効な手段として戸籍上死んでもらったわけ。』
そのアカツキの遠慮のない物言いにミナトなどは不快感を抱いたみたいだが、ユリカの様子を伺い見るとあまり気にしていないようだった。

「質問していいですか?」
『何だい?艦長』
「アカツキさんって結局良い者なんですか?悪者なんですか?」
『ははは!痛いところつくねぇ。
 ま、少なくともネルガルの利益の為・・・としか言えないけど。
 その範囲でなら手助けしてあげてるつもりだよ』
「・・・ルリちゃんの事とか?」
『ノーコメント。ただ僕は自分の為に戦う奴しか信用しないから、自ら望まない相手に力を貸したり無理強いをしたりしたつもりはないよ。そこんとこ覚えておいてね』
アカツキは嘘はついていない。
たとえそれがその人を幸福にするか不幸にするかは別にしてだ。
それが自分の選んだ道というものだろう。誰を咎める筋合いもない。
『ああ、キャッチが入っちゃった。じゃ祝勝会で!』
と、逃げるようにアカツキのウインドウが閉じた。よくも悪くもアカツキのままだった。

ユリカはムスーっとしたまんまだった。それでイネスもはばかられたのだろうか?
いつもなら優に1時間はかかるなぜなにナデシコが20分で終わったのは・・・。



Chapter14 「信じてますから」



−なぜなにナデシコ終了後−

ユリカは会場の片付けをしているハーリーを呼び止めて懐から取り出したものを渡した。
「なんです、これ?」
「さぁ?わからないからハーリー君に解析して欲しいの」
「このディスクをですか?」
そう、そのディスクはあの墓地にてルリから手渡されたもう一つの物だった。
「一応、何入ってるかわからないからそのつもりで。」
「う・・・わかりました。ネットから隔離した端末から解析します・・・」
ちょっとばっちいものをつまむかのように立ち去るハーリーを見送った後、ほとんど人がいなくなったのを見計らって、ユリカはイネスに声をかけた。

「なあに、艦長?」
「あの〜お話があるんですけど。二人っきりで」
「話にもよるけど。」
「彼女の容態・・・って言えばわかりますよね?イネスさんもかかわっていたんでしょ?」
一瞬、イネスの表情が強ばる。ユリカの顔は確信犯的だった。
「誰から聞いたの?」
「本人からです」
「わかったは。向こうに行きましょう」
ここまで来て説明を渋るイネスではないようであった。


−ナデシコC・医療室−

「さて、何から話しましょうか?」
「結論だけでいいです」
イネスの問いにユリカは簡潔に答えた。
「ルリちゃんね。進行具合から見て、もって一月。
 体が動かなくなるのにはその半分もかからない。」
そしてやや目を伏し目がちにして続ける。
「それも静養していての話で、次に出撃すれば確実に・・・ね」
「そ、そんなに悪いんですか?」
イネスの言葉にユリカは予想していたとはいえ、やはりショックだった。

「治す方法はないんですか?」
「無理ね。アキト君の様に仮死状態にされて融合させたれたのならともかく、彼女の場合、自らの意志で遺跡組織の浸食を許している節がある。
 既に大半の神経組織が遺跡のナノマシーンにリプレースされている以上、遺跡組織を強制的に引き剥がすことは肉体から魂を引き離すことに等しい」
 イネスの言葉は容赦がない。ミナトあたりが聞けば「もう少し言葉を選んで!」と言うところだろうが、そもそもここに来るということはその事実を聞く覚悟が出来ているという事だ。

『だからあんなに生き急いでいたんだ・・・』
体の動かなくなるその前に・・・それがルリを突き動かしていたものだった。
ユリカはアマテラスでのこと、そして秩父でのルリのことが思い出された。

「でもね、治す方法はなくても直す方法はあるのよ」
「はい?」
「聞きたい?」
「ええ・・・まぁ・・・」
「じゃ、火星までのナビゲート、代わってくれる?
 さすがに一日に二回も三回もやるのは辛くって」
「・・・イネスさん、年ですねぇ」
「じゃかーしい!」

それからイネスの説明が延々と続いたのはいうまでもない。


−ナデシコC・格納庫−

「おい、セイヤさん。このスペックって本当か?」
リョーコ達パイロットの面々は先ほど渡された各自のエステバリスのスペックシートを目にして飛んできていた。
「ああ、そうだが。」
「そうだが、じゃないよ。こりゃ、あたいが乗ってたカスタムの30%ましだぜ。」
「すごいだろ?エリナ女史のプレゼントさ、夜天光らとやり合うにはこのぐらい必要だろ?ありがたく受け取っておけって」
「っていうかさウリピー、こんなに出力だして機体は大丈夫なの?ベースは量産型なんでしょ?」
「オレのスーパーエステもアップされてるし」
「前のエクスバリスみたいにボン・・・」
口々にいうパイロットの面々。だがウリバタケはそれらを否定した。

「心配するな。フィニッシュはオレがやってる。
 それとも何か?オレが信用出来ないか?」
「そうは言ってないが・・・」
口ごもるリョーコ。何といってもウリバタケの技量を知っているのは、それを駆る他ならぬ彼女たち自身だからだ。
「心配するな。こいつは白いやつのデーターがフィードバックされてるんだ。六連あたりとならタメを張れるさ」
「白いやつって、そりゃ・・・」

三人とも思い浮かべる。
かつて仲間であった少女の事を・・・
コンピュータと友達だった少女の事を・・・

「そう、たった一人で奴らと戦ってきたお姫様の遺してくれたものさ。
 気持ち、くんでやらなきゃ」
「「「「おお!」」」」
「そうと決まったらもたもたすんな!
 早くIFSの微調整を行なってこい!
 んでもってシミュレーターにエステのデータを入れてある。
 出撃前に体を慣らしておけ!」
「「「「はい!!」」」」

そして彼らは出撃前までシミュレーションや機体の調整に余念がなかった・・・


−ナデシコC・ハーリーの自室−

「艦長、遅かったじゃないですか!」
「ごめん、ハーリー君。ちょっとイネスさんに捕まっちゃってて。へへへ」
「何の話です?」
「女の子同士のひ・み・つ」
「・・・」
先ほど頼んでおいたディスクの解析が終わったとハーリーからメールがユリカの元に届いていたが、それをチェックできたのはゆうに30分ほど過ぎてからだった。
内容が内容なので自室にて説明するとのことである。

「結果をご報告します。
 これ、艦長用に調整されたオモイカネへのアクセスツールですよ。」
「え?っていうことは・・・」
「そう、艦長のIFSでもシステム掌握出来ますよ」
「うそぉ!やった!!」
ユリカは飛び上がらんばかりに喜んだ。
今回の作戦のネックはハーリーだけでシステム掌握が出来るか?という点にあった。現状の可能性は五分五分だった。少しでも自我兵力が増えることは作戦の成功率のアップに繋がる・・・はずなのだが、それにハーリーが水を差した。

「ただし!」
「へ?」
「トロイの木馬入りですよ、これ。しかもバックドア付きの。」
「はい?」
ユリカは既に「専門用語わかんな〜い」状態になっていた。


−イネス先生のワンポイント解説−

「トロイの木馬」とはコンピューターウイルスの一種で、普段は普通のアプリケーションソフトのフリをしながら、ある条件になると途端に悪いことをし出すというプログラムです。

そして「バックドア」とはその『トロイの木馬』の実害の一つで、通常ネットワークに接続されるコンピュータは他人に自分のコンピュータの中身を見られないようにセキュリティーをかけます。
しかし、この「バックドア」はそのセキュリティーの抜け道を造ってしまうソフトウェアになります。このソフトのどこが恐ろしいかというと自分のコンピュータの情報が丸見えなのはもちろん、どのようなソフトウェアも勝手に走らされてしまう事になります。

そう、たとえそれが自分のコンピュータのデーターを全て消す命令であっても、です。

というわけで、良い子のみんなは素性のしれないプログラムは迂闊に実行しちゃいけませんよ。

イネス先生からのお願いでした。


−再びハーリーの自室−

「というわけです。わかりました?」
「う・・・」
「つまりですねぇ。このソフトを使った瞬間、このソフトの作成者はナデシコCの全てのコントロールを外部から出来てしまうんですよ。しかも、艦長がこのツールを使うんで艦長のアクセス権限でオモイカネにアクセスすることが出来ます。
 つまり、艦長に出来ることは全て出来る事になるんですよ。
 その気になればナデシコCを自爆させる事だって・・・」
ハーリーのその言葉に息を呑むユリカ。

「このツールを作った人はオモイカネに関してかなり精通してますね。僕でもここまで見事なツールを作るのは骨が折れますよ。
 まぁ、ナデシコのシステム管理者の僕としては、これほど危険なツールを使用するのは反対しておきますけど・・・」
ユリカがあまりにも物惜しそうな顔をしていたのでハーリーは一応警告しておいた。でも使う使わないの判断を行なうのは艦長であるユリカの権限だ。

「これ・・・トロイのなんとかってやつ、外せないの?」
かすかに希望を抱いて質問するユリカだがハーリーは言外に否定した。
「無理ですね。
 というか、このバックドアの部分がこのツールの肝に当たるところなんですよ。
 システム掌握だって元をただせばハッキングっていう類似のテクノロジーなんです。
 艦長のイメージ情報をオモイカネ用のデータに変換する際にバックドアのコア内のルーチンを使用してるんですが、これがすごいソフトで。
 このコア部分は特に暗号がかかっていて必要部分を逐次解読しながら実行するっていう恐ろしく高度なソフトウェアなんですよ。悪用されないための対策なんでしょうね。
 これを今日明日中に解読なんて不可能ですよ。
 それにイメージデータの変換結果がとても効率がよくて、僕にもちょっとアルゴリズムが推測できません。たぶん相当洗練された連想系の知識データベースエンジンに膨大な量の標本データを収録してるんじゃないでしょうか?それもオモイカネに精通したものが収集したログから吟味を重ねたデータだけを使って。
 いやぁ、人のプログラムを覗いてこれほど興奮したのは初めてですよ。」
既にユリカは涙目になっていたのに気づいて、ハーリーは慌てて話を元に戻した。

「・・・ああ、済みません。脱線しちゃいましたね。
 要するにですね、単純にこのコアをはずして代替えのルーチンをソフトウェアに組み替えることは可能かもしれませんが、そんなソフトを使っても艦長には機動兵器の一機だって掌握出来ませんよ。」
正直いってユリカにはハーリーの言う内容に関して半分ぐらいしか理解できていなかった。理解できたのはただ一つ。

ルリを信じて自爆覚悟で、ユリカとハーリーで電子戦の勝率をあげるか・・・
ルリを信じずに予定通り、ハーリーだけで五分五分の電子戦を挑むか・・・

ユリカはその二者択一を迫られていたのだ。ルリらしいけれん味の聞いたトラップだった。

「どうします?」
ハーリーが聞き返す。
別に危険を冒す必要はない。もともとハーリーのみで作戦を遂行する事で計画を進めていたのだ。
しかしハーリーはどこかで違う答えをユリカに求めていたのかもしれない。

「イネスさん」
ユリカはおもむろにコミュニケを開いてイネスを呼び出した。
『何、艦長?』
「あの〜さっき火星までのナビゲート、私がやるって言いましたけど・・・
 済みません、あれ無しにしてもらえません?
 何度もナビゲートしていてお疲れのところ申し訳ないんですけど・・・」
『・・・どうして?』
イネスが不思議そうに尋ねる。
ユリカは右手の甲を見せた。そこにあるのは無論IFSのタトゥーである。
「ジャンプアウト後にやる事が出来ちゃいましたので!」

「じゃ、艦長・・・」
「ええ、信じてますから
 ルリちゃんを、そしてナデシコのクルーを。
 私はずっとそれでやってきた。それが私の『私らしく』だから」
ハーリーの問いに対する、それがユリカの答えだった。
「やっぱり!艦長ならそう言うだろうと思ってましたよ。
 そうとわかればソフトウェアのインストールをしましょう。
 IFSの調整も必要です。
 急ぎますよ、艦長!」
「うん!!」


−ナデシコC搭乗メンバー−

ナデシコCの搭乗人員は次の通り
※ただしカッコ内は兼務および名目上の権限を示す

艦長(エグゼクティブオペレータ兼務):テンカワ・ミスマル・ユリカ大佐
副長(戦闘指揮及びエステバリス隊隊長兼務):タカスギ・サブロウタ大尉
副長補佐(メインオペレータ及び主席システム管理者兼務):マキビ・ハリ少尉

メインコンピュータ:オモイカネ・ハーリーEdition

オブザーバー(戦略指揮補佐):アオイ・ジュン中佐
オブザーバー(戦闘指揮補佐):ゴート・ホーリー(大尉待遇)
操舵士:ミナト・ハルカ(少尉待遇)
通信士:白鳥ユキナ(軍曹待遇)
サブオペレータ他5名

エステバリス隊指揮官:スバル・リョーコ中尉(ただし統合軍での階級)
エステバリス隊パイロット:アマノ・ヒカル(少尉待遇)
    同       :マキ・イズミ(少尉待遇)

整備班班長:ウリバタケ・セイヤ(少尉待遇)
整備班他25名

科学班及び医療班(ジャンプナビゲータ兼務):イネス・フレサンジュ博士

機関室班10名
庶務他5名

以上60名+1でした。


−ナデシコC・ブリッジ−

火星の後継者達の決起は既に始まっていた。
その報が入ったという事はナデシコCの作戦開始の時刻が来たことを意味していた。
作戦を開始するにあたってユリカは珍しく訓辞を述べることにした。
「かつてナデシコを自分たちの船だと言って下さった皆さん。
 今でもナデシコは自分たちの船だと言って下さる皆さん。
 私たちはこれからかつての仲間テンカワ・アキトとホシノ・ルリを助けに行きます。
 これは私たちの戦いです。
 私たちの仲間と、そして何より私たちが私たちらしくいられる場所を守るために。」
『OK!』
『行きましょう!』
『賛成!』
『GoGo!』
などなど、みんながウインドウにて賛同してくれている。

ユリカは「かつてのナデシコ」に戻ってきた。
それがたとえ束の間の同窓会だったとしても、「オモイデ」は前へ進む力を与えてくれるのだから。
ナデシコCはまばゆい光の中へ消えていった・・・。

そしてほぼ同時刻、ナデシコCに乗らなかったナデシコクルー達の戦いが別の場所で始まっていた・・・。


See you next chapter...


−ポストスプリクト−


っていうことで、覚えていただいてました?Chapter12でユリカがルリからディスクを受け取っていたことを。あそこの前振りがここに繋がってたんですねぇ。

劇ナデではなぜナデシコクルーが必要だったのか?というところがさらりと流されていて再結集のところの感動が薄かったのでここでは膨らませてみました。

なお、今回ルリが登場しておりませんが、その存在感なるものが伝わっていればこの回が成功したことになるんですが、どうでしょうか?

ちなみに次回はもう少しだけ寄り道します。

では、次回まで・・・



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