−アバン−
やってきました、ナデシコのスチャラカ三人組。
いくら相手にされないからって、ハッキングなんて安直じゃないの?
そんでもって、開けたモノはパンドラの箱、封印していたのはジャンパー実験結果という災い。最後になんとか「希望」だけは残ったのですが・・・
せっかく都合のいい美化した過去だけを見ていられたのに・・・この現実を見てもまだ立ち上がれますか?ユリカさん。
−アマテラス民間人用フロア−
「退いてくださ〜い!!」
疾走する見学用トロッコ、運転するはあのマユミお姉さん。
子供たちはジェットコースターに乗ってるつもりなのか、わいわいはしゃいでいる。
無論、ユリカも乗っていた。
「すみません、わざわざ・・・」
「い〜のい〜の。こういうの展開って燃えるでしょ!」
「はい!」
『予感は的中、まるで騒ぎに誘われるように敵は来た。』
『KARIYU』
『でも、これは暗号?偶然?』
『YURIKA』
『なぜ私?私が来たから?』
ふと浮かぶ、ユリカと呼ぶ声
『おい、ユリカ』
『あの〜ユリカさん』
でも、あの人は、あの人たちは・・・
遺体のない、お葬式。
喪主を務めるユリカ。
あの日は、あの時は、ただ
『なぜ、3人で行こうと言った新婚旅行なのに、自分だけがシャトルに乗らなかった?』
何度も爆発するシャトルを思い出しながら、それしか考えていなかった。
『なにしてんだよ、ユリカ。新婚旅行に行くんだろ?
ルリちゃんも待ってるんだ、早く来いよ!』
ユリカにとって、KARIYUの文字はそう言っているようにしか思えなかった。
−アマテラス宙域前線−
迎撃ミサイル発射、その数数千。
対空砲火、その数、数万
グラビティブラストの火線、数十
たった一機に過剰とも思えるその攻撃に、「それ」は怯むことなく向かっていった。
まるで天使が翼を広げたような、あるいは大空を羽ばたく鳳凰の様な一度見た者をとらえてはなさない、美しいまでにスタイリッシュなそのフォルムは今までの機動兵器の概念にないモノだった。
ミサイルはほとんど当たっていない。「それ」のあまりのスピードについていっていない。よしんばその付近で爆発しても「それ」はものともしなかった。
対空砲火はそのほとんどが当てることは期待していなかっただろう。せめて足留めにでも・・・という思惑すらも無駄に終わっている。
グラビティブラストに至っては2、3の直撃はあった。が、全く効果はなかった。
「それ」が戦艦に匹敵するデストーションフィールドを持っていることは疑う余地もなかった。
そして、「それ」の進撃のスピードは遅くなるどころか、早くなる一方だった。
駐在軍次席司令官のシンジョウ中佐が必死に指揮をとる。たった一機の強襲する兵器を落とすのがこれほど至難の業とは思わなかった。
「コロニーに近づけるな弾幕を張れ!」
それを遮るようにアズマのウインドウが怒鳴り声をあげて開いた。
「かまわん!肉を切らせて骨を断つ!!」
「何をおっしゃられるのですか准将!」
「コロニー内とその周辺での戦闘を許可する」
「ええ!」
「飛ぶハエも止まれば撃ち易し」
いつの間にかブリッジに上がってきているアズマ准将。
「多少の犠牲は止むを得ん!」
これでなかなか思い切りの良いアズマ。本当に優秀な軍人かもしれない。この茶番を見抜けていれば、の話であるが。
そしてこの通信をどうやって見ていたのか知らないが・・・
「よっしゃ!!」
エステバリス隊隊長、スバル・リョーコのウインドウがそれに呼応した。
・・・だから、どうやってこんなところにウインドウを開いたの、君。
Chapter3 戦う目的
−なぜなにナデシコ−
姉さん、出撃中。代わりにラピスが任された。
今回はホワイトサレナについて。
プランナーはサリナ・キンジョウ・ウォン、フィニッシャはウリバタケ・セイヤ
開発コンセプトは3C
CC
Compound
Compact
機体をCC組成にすることにより、バッテリー不足を解消、ジャンプ用のエネルギーも確保可能。
一つのパーツに機能をCompoundさせることにより、性能を犠牲にせずにCompact化を実現。
ウイングはスラスター兼重力波アンテナ、8枚のウイングにてエステの8倍のエネルギー確保に成功、同時に高機動性を実現。
両腕にディストーション・ブレード内蔵のカノン砲を装備。ウイングからのエネルギーを用いれば戦艦クラスのデストーションフィールド発生可能。転じてソードとしての使用も可能。
フレーム強度を必要としなくなったのでスタイリッシュな機体となった。
ただし、取り扱いはセンシティブでコントロールは私と姉さんで行う。
今回はここまで、詳しくは姉さんからどうぞ。
私も出撃するので、それじゃ。
−再びアマテラス宙域前線−
「野郎ども、行くぜ!」
リョーコのかけ声とともにステルスシートをはぎ取って立ち上がるエステバリス小隊。ちょうど強襲してきた敵機動兵器の進路前方に立ち下がった。
敵機動兵器=ホワイト・サレナのコックピットには瞬時に相手の識別と戦闘能力判定を行い、結果を表示した。
『強行突破危険率75%、回避を勧告』
サレナは次の瞬間、信じられないことに今までのスピードを殺すことなくほぼUターンをし始めた。
「遅い!」
リョーコのレールカノンが2,3発火を噴いた。当てるつもりはない。ただ逃げるルートを狭めたかっただけだ。と同時にすぐさま敵の追撃に入る。
屈指のエステバリス・ライダー、スバル・リョーコと謎の機動兵器ホワイト・サレナとのかくも壮絶な追いかけっこが始まった・・・
−ナデシコB−
「お待たせ!皆さんの艦長テンカワ・ユリカ、ただいま帰りました!」
『お帰りなさいbyオモイカネ』
律儀にウインドウでお出迎えをする。
「第一種戦闘配備に移行、ハーリー君、ワンマンオペレーションは戦闘パターンにてお願い」
「はい」
「サブロウタさん、戦闘指揮お願い。エステの準備も。ただし、当分は高みの見物です」
「了解」
「加勢はしないんですか?」
意外そうに聞くハーリー。それによってオペレーションの仕方も変わってくる。
「ナデシコは避難民の収容を最優先とします。それに」
ユリカはいったん言葉を区切って苦笑いをする。初代ナデシコにいたときから比べればそんな表情をするようになった分、大人になったということか。
「向こうの方から断ってくるでしょうから・・・」
『その通り!』
会話にコミニュケで割り込むアズマ准将。しかしリョーコといい、統合軍って聞き耳を立てまくっているのか?
『今や統合軍は全ての敵を打ち倒す無敵の軍、子供の使いの宇宙軍などそこで指でもくわえて見ているがいい』
高笑いをしたままアズマのウインドウが閉じた。ユリカもハーリーも疲れた。
「サブロウタさんみたいにスチャラカも何ですけど、准将のように暑苦しいのもねぇ」
「ハーリー君。もう一度アマテラスにハッキング。」
「ええ!?」
「キーワードは『YURIKA』です」
それだけいうとユリカは自分のシートを移動させた。
ブリッジの指揮官フロアにある三人の席はそれぞれ特殊だ。
中央のハーリーのシートはワンマンオペレーションのために艦内全てを見回し、同時に全周囲のウインドウボールを展開するために前方にせり出す。
その左右はジャンプ用のナビゲータシートも兼ねるが、サブロウタのシートはそのままエステバリスの格納庫まで直通できる。
対するユリカのシートはさらに一段上のフロアにあがって従来通りの戦艦指揮卓のある席に移動する。ユリカがこの卓を使うのは数度、そのどれもが高難易度の作戦だけだった。
「あの、艦長の名前で検索するんですか、艦長!」
「さぁ、ハーリー、無駄口たたかずにモード移行!!」
先ほどのお返しとばかりに、サブロウタが横からワンマンオペレーションモード移行ボタンを押す。
「うわぁ!わ、わかりましたよ!IFSのフィードバックレベル10まで上昇」
「ハーリー君。艦内は警戒パターンAに移行よろしく」
「わかりました。システム統括します」
ハーリーのシートがウインドウボールに包まれた。
ユリカはふと思い出す。初代ナデシコに乗っていた、懐かしき昔の日々のことを。あの時はアキトがいるから戦える、アキトがいるからナデシコは自分の居場所だと思っていた。
でも、それ以前のアキトが死んでいると思っていた頃の自分はどうだったのだろう?
そして今の自分はどうなのだろう?
ひょっとすれば、アキトのことさえのぞけば自分はこうして戦場の中に身をおくことに生き甲斐すら感じているのではないか?
ナデシコとアキトの思い出がつらいからあまり指揮を執らずにいたユリカだったが、今の高揚感は自分にそう感じさせずにはおれなかった。
−アマテラス戦闘宙域−
「邪魔するな。そいつはオレの獲物だ」
リョーコのエステバリスカスタムとホワイトサレナの追撃戦はアマテラスの外周部まで続いていた。当然、迎撃しようと思っていた味方の機動兵器すら巻き込んで。
しかし、アズマにはそれが敵が逃げ出したと勘違いをした。
−アマテラス統合軍ブリッジ−
「どうだ、宇宙軍め。大戦中はさんざんデカイ面していたが今は違う」
なにか恨みでもあったのか、アズマ?
「みろ、これが統合軍の力、新たなる力だ。地球連合統合平和維持軍バンザイ!ヒサゴプランバンザイ!」
諸手を上げて勝利に酔いしれるアズマ、だがそれは長く続かなかった。
「ボース粒子増大!!」
悲鳴のようなオペレータの報告、だがそれが間に合うことはなかった。結果だけが無情に報告される。
「守備隊の側面、グラビティーブラスト掃射。被害多数!!」
「質量推定・・・戦艦クラスです!!」
「くそ!!」
アズマの怒号が飛んだ。
謎の戦艦ユーチャリスはその怒号が冷めあらぬうちに、次のグラビティブラストを掃射した・・・。
−アマテラス非公式ブロック−
「へぇ、今度はジャンプする戦艦かい?」
あのアズマの部屋を辞去したヤマザキ次官はなぜかその非公式ブロックにいた。既に白衣を羽織り、ヒサゴプラン開発公団次長の顔はそこにはなかった。変に悟った、冷めた顔がそこにはあった。
「ネルガルでしょうか?」
「さぁ」
「あの連中は?」
「5分で行くと」
「こりゃ大変だ」
全然困ってなさそうにSPの報告を聞くヤマザキ。着いた先の研究室に入ると開口一番
「緊急発令。5分で撤収。
持って帰るのはデータだけでいいよ。
それより逃げ遅れるとシラヒメ班の様になるからそのつもりで」
ヤマザキなりのシャレであったが、現実になった場合、シャレではすまないから各員あわてた。
−ナデシコB−
『非難してきた皆さん、わたしが当艦の艦長、テンカワ・ユリカです。本艦はこれよりアマテラスを離脱して第2警戒ラインまで待避して負傷者の救助にあたります』
ユリカのウインドウを見ていた避難民の方々のうち、マユミお姉さんがポツリと一言。
「そりゃ、戦艦に乗ってみたかったけど・・・さっきの約束ってこれのこと?」
ユリカが子供たちとした約束−戦艦にのせてボソンジャンプを体験させてあげること−はすぐに実現したが、別にユリカはこれを見越して約束したわけでもないだろうに。
−再びアマテラス統合軍ブリッジ−
「ナデシコB、アマテラスより離脱!」
「あんな小娘ほっとけ、それより敵船艦を迎撃、早くしろ!」
『この人はやはりダメか・・・』
目前の戦いに熱中しているアズマを見て、シンジョウは溜め息をついた。茶番と気づかずに真剣に取り組んでいる光景ほど滑稽なものはない。
−ユーチャリス−
『ラピス』
『なに、姉さん』
『パターンBへ移行、守備隊の相手お願い』
『分かった』
防戦一方のユーチャリスだが次の瞬間、反対に相手の艦が火の玉にくるまれた。
無数の無人兵器バッタを放出したからだ。
唯のバッタではない。かつての木連が放った頃のバッタではない。機能も強化されているし、何よりユーチャリスのオペレータ、ラピス・ラズリにより統制されたバッタたちだ。
人により統制のとれた無人兵器ほど怖いモノはない。彼らは恐怖を知らない。死ぬまで戦い続けるからだ。
「オレの相手はてめえらじゃないんだよ!」
当然、リョーコもバッタ達に絡まれていた。追い払いながらも本来の獲物を片目で探し続けた。
「そこか!」
ホワイトサレナを確認すると同時にすぐさまレールカノンを連射した。しかし、当たったのはたったの2発、しかもフィールドに弾かれただけだった。
「下手くそ!!」
『隊長、お供します!』
「来れればな!!」
最大戦速で飛ばすリョーコ。彼女が隊長の「ライオンズシックル」部隊の内4機が彼女に付いて来れた。彼女の部下も十分優秀と言えよう。
−ナデシコB−
『今までのおさらい by オモイカネ』
「不意な出現で強襲を行い、
守備隊の反撃を引きつけておいて
別動隊で殲滅。
今度は別動隊に目を奪われている隙に、自分はポイントを変えて再突入」
「やりますね。」
「・・・」
オモイカネのおさらいウインドウを見て呟くユリカに相槌を打つサブロウタ。すぐに反応できないハーリーは悲しいかな経験不足のようだ。
「気づいたリョーコさんも流石ですね。」
「どうします?」
「サブロウタさんはエステで待機。でももうちょっと見物しましょう」
「は?」
「見たくありませんか?敵の目的、敵の本当の目的」
「それって」
「襲われるなりの理由、それがこのアマテラスのどこかにある。なら、そこまで敵さんに連れて行ってもらいましょう。」
「艦長・・・」
「ワルですねぇ」
ハーリーは絶句し、サブロウタは面白そうに笑う。
多くの人はその天真爛漫な笑顔にだまされるが、本来ユリカはこういうことにサラサラ罪悪感を持っていないのだ。天才とはそういうものである。
ユリカは見たかったのだ。敵の目的を。
それは自分にもかかわってくると直感したからだ。
「YURIKA」の文字がそれを物語っていたから・・・。
See you next chapter...
−ポストスプリクト−
いよいよ、次回はAパートの佳境、問題のアレです。
やっと白百合の正体が明らかに・・・ってバレバレか。
なお、下記は与太話です。
サリナ・キンジョウ・ウォン:
本編のオリジナルキャラクターでエリナ・ウォンの妹
姉が遺跡テクノロジー(相転移エンジン、ボソンジャンプ)
に力を注いだのに対して、彼女はエステバリスシステムの
構築に力を注いだ。
サレナシリーズ(本作ではブラックサレナも存在していた事に
なっています)を開発したのも彼女で、対火星の後継者用
機動兵器システムのコードネーム:サレナも彼女の名前をもじって
つけたもの。
もっとも、彼女が本作で出番があるか不明です(笑)
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