−アバン−
ヒサゴプランの拠点を潰しまくる幽霊ロボット。
にもかかわらず、襲われるなりの理由があるのか、知らぬ存ぜぬを決め込む統合軍。
そこに首を突っ込むのに、ナデシコBを送るなんて・・・連合宇宙軍もやる気があるんだか、ないんだか。
−アマテラス、統合軍オフィス−
「何だ!貴様等は!!」
開口一番、怒号一閃、机を叩いて威圧しまくり、アマテラス駐在軍司令官アズマ准将は初対面のものに対し何故か高圧的な態度を取った。
「地球連合宇宙軍、大佐テンカワ・ミスマル・ユリカでっす」
「同じく大尉タカスギ・サブロウタっす」
二人のなれなれしい態度を側でハーリーがハラハラしながら見ている。
「そんなことを聞いているのではない!」
「何だといわれましたので・・・」
「何で貴様等がここにおるのだ!」
「宇宙軍が地球連合所有のコロニーに立ち寄るのに問題があるのでしょうか?」
マジに疑問調で聞くユリカにつまるアズマ。
「ここはヒサゴプランの中枢だ。開発公団の許可は取ったのか!」
「取ってなきゃ入れるわけないじゃん」
「何!」
「いえ、唯の横浜弁です。じゃんじゃん・・・って」
火に油を注ぐサブロウタに、弁明にすらなっていないハーリーの言い訳。元から怒ることを前提にしていたアズマをあおるのには十分だった。
「先日のシラヒメのボース粒子の異常増大が確認されております。ジャンプシステムに異常が発生した場合、付近を航行の船舶およびコロニー郡に多大な影響を与える可能性があります。これはコロニー管理法の緊急査察条項に該当しますのであしからず」
カンペを棒読みのユリカ、ここに来る途中オモイカネに作らせたのだが、成功しているようには思えない。
「まぁ、ガス漏れの点検だと思っていただければ」
「ヒサゴプランに欠陥はない!」
「まぁまぁ准将」
どう考えてもフォローにならないサブロウタ、それに過剰反応するアズマ。それを今まで脇でながめていた次官ヤマザキが間に入った。
「宇宙の平和を守るのが我らが宇宙連邦軍の使命。ここは使命感に燃える大佐に安心していただきましょう」
ヤマザキの歯の浮くような台詞にニコニコして聞き入るユリカ。
ハーリーなどは艦長が懐柔されていないかハラハラするところだが。
−ヒサゴプラン見学コース−
「皆さんこんにちわ!」
「「「「こんにちわ」」」」
「未来の移動手段、ボソンジャンプを研究するヒサゴプランの見学コースへようこそ。ガイドはマユミお姉さんと!」
「ぼくヒサゴン!」
「「「「うぉ〜!!」」」」
「なんと本日の特別ゲストです。皆さんと一緒にコースを回っていただくのは、あの!」
「そう、あの!」
「地球の英雄、天才女性艦長のミスマル・ユリカ大佐です」
「プンプン、ミスマルは旧姓で結婚して今はテンカワですぅ!」
マユミお姉さんに突っ込むユリカ。リテイクを要求する。
「すみません、、天才女性艦長のテンカワ・ユリカ大佐です」
「よろしくね、ブイ!」
「「「「わ〜い!!」」」」
Chapter
2 ヒサゴプラン
−再びアマテラス、統合軍オフィス−
「がははは!子供と一緒に臨検査察とは、愉快愉快!」
大爆笑のアズマ准将。ご満悦の准将はヤマザキ次官とお茶をすする。
「しかし、あの大佐さんには悪い事しましたな。宇宙軍としても最近に事件に関してはメンツもあるのでしょうが・・・」
ウインドウに臨検中のユリカが映る。無邪気に子供達と一緒に見学コースを楽しんでいるようにみえる。
「宇宙軍にメンツなどない。何だ、あのたるんだ娘が艦長などとは!軍をなめとる」
「嫌がらせですよ、子供の使いだと思えば」
「使いはトットと帰すに限る!」
こんな子供だましに引っかかったのを素直に喜んでるのも問題なのだが・・・
ヤマザキは心の中で突っ込んだ。
−ナデシコB−
「ディレクトリ構造把握、休眠中の管理者アカウント取得、自衛用プロクシ10枚展開」
オペレータ席にウインドウボールを張り、着々とハッキングのための下準備をするハーリー君。
「インデックス検索完了、そろそろ行こうか。オモイカネ」
『OK、ハーリー』
「条件セット、絞込検索開始。精度は絹ごし」
律義にオモイカネはデフォルメハーリーのウインドウを表示。
「出来たスープは順次僕に、スピードはわんこの中級・・・」
「よ!」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
ウインドウボール内に首を突っ込むサブロウタ。そりゃいきなり生首が現れれば驚くわなぁ・・・
振り向く他のオペレーター、二人の漫才(?)はクルーの楽しみの一つである。
「何驚いてるのお前」
「はぁはぁ・・・ウインドウボールの中に・・・無断で・・・入らないでください」
「いいじゃん、別に知らない仲じゃあるまいし」
「な、何いってんですか、エッチ!!!」
そんな些細なジョークに過敏に反応するのもハーリーらしいが・・・いいのか?アマノ・ヒカルあたりが見れば同人誌のネタにされるぞ?
「はぁ」
「なんだよ怒ったり落ち込んだり、忙しい奴だなぁ」
「いいんですかね、いくら『アマテラスハッキングしといてね』っていう艦長の命令だって。ばれたら問題ですよ、いくら協力してくれないからといったって」
「しょうがないさ、事故調査委員会も統合軍も何か隠しているみたいだし」
「でも、艦長がかわいそうじゃないですクワッツ!!」
「なに、おセンチになってるんだよ、この口が!」
ほっぺたを引っ張るわ、脇をこそばすわ、鼻に指を突っ込むわ、サブロウタはハーリーをいいように弄んだ。
今日もナデシコは平和だわ、と誰かが言ったとか言わなかったとか。
「その艦長がせっかく間抜けを演じてくれているんだ。今のうちに掴めるものは掴んじまおうぜ」
「はい」
うなずくハーリー、ちなみにほっぺたを引っ張られたまんまだが。
「でも・・・なんで艦長ってボソンジャンプのときナビゲータしないんでしょう?いつもサブロウタさんに任せていますよね?」
「ああ」
ふとした疑問をハーリーが言う。
「だって、艦長って生体ボソンジャンプできるって聞いたことありますよ。そのわりには艦長のジャンパーライセンスはB級だし」
「そういえば艦長、『お父様に止められているし、試験の結果も悪かったから、恐くてやらないの』って言ってたけど」
「やっぱり気にしてるんですかね、旦那さんのこと」
「ま、熱血クーデター前に月臣大佐から聞いたところによると、あの当時、ボソンジャンプを完全に制御していた人って、あの人だけらしかったから。無理もないかもな」
「でも、何でB級なんです?かつてのナデシコを遺跡ごと飛ばしたんでしょ?」
「さぁ、なんでだろう?」
−なぜなにナデシコ・ボソンジャンプ編−
皆さん、こんにちは、お姉さん役の白百合(ペンネーム)です。
またお会いいたしましたね。
さて、今回はボソンジャンプに必要な要因とライセンスについてです。
皆さん、ボソンジャンプに必要な要因ですが次の四つが必要です。
1.ジャンパー体質
2.ナビゲーション能力
3.ジャンプフィールド生成能力
4.イメージ伝達率
まず1に関してはおわかりですね。普通の人は遺伝子を弄らないといけないという奴です。
なぜ遺伝子がボソンジャンプに対する耐性がないといけないかという疑問に対してさまざまな仮説が上がっています。
一応、私は故イネス・フレサンジュ博士の唱える、ボソンジャンプシステムの欠陥を古代火星文明でも解消できないため、DNAを自動的に変換する装置を作り、後の文明の為に火星に残しておいたという説を採用しておりますが。
ともかく、機動兵器にてボソンジャンプを行うにはDNA改造出来るパイロットを多数確保するか、戦艦並みのデストーションフィールドを発生できるエネルギー源を確保しなければいけないわけで、前者も後者もなかなか難しいようです
次に2ですが、生体を含むボソンジャンプをイメージ伝達後、ジャンプ終了まで管理する役割を担います。これがないと実際どこへ飛んでしまうかわからないわけですが、現在のDNA改造により取得可能な能力となっています。
3のフィールド生成能力はCCにトリガーを与えることにより生成可能で、実際にはトリガー発生能力の方を意味することの方が多いようです。これも研究所レベルでは機械的に発生可能ですが現状では相転移エンジン並のエネルギー源が必要だとか。CC自体がエネルギー源だというの不便な話ですね。
最後に4ですが、これは限定つきで技術的には解決済みです。
もともと人間の漠然としたイメージを遺跡の演算ユニットに伝える為には、遺跡にコネクトする伝達経路とイメージデータを遺跡にわかる言語に翻訳する必要があります。これを行なっているのが、火星生まれの人が持つナノマシーンです。ですが、これらのナノマシーンは現在の科学では複製不能の代物です。
ただ、面白いことにデータの伝達経路もイメージデータも、場所に関らず、距離が近ければほぼ近似値計算にて演算できることが数多くのジャンプ実験によりわかりました。(それがあのジンシリーズです)
そして、データ量が少なければ遺跡製のナノマシーンでなくても伝達できることがわかりました。これによりB級ジャンパーによる短距離ボソンジャンプに現実味が出てきました。もっとも現状では研究所レベルの段階ですが。
ただ、距離が遠くなると近似値式で無視できていた係数の式が莫大に複雑になり、現在のプロセッサーでは演算できないことも分かってしまいました。
従って、任意の場所にボソンジャンプするにはA級ジャンパーの力が必要なのは現在も変わりません。
幸い、チューリップがチュウリップ間ならその演算を肩代わりしてくれるので、限定つきですが長距離ボソンジャンプは可能になっております。これを利用したのがヒサゴプラン。さすがに、イメージ伝達までは肩代わりしてはくれないので、B級ジャンパーが必要ですが。
結局のところ、一人の人間が気軽にボソンジャンプ出来るかといえば、個人用の戦艦並みの高出力ディストーションフィールドが発生出来る装置が出来ればなんとか可能ですが、現実にはエステバリスクラスに搭載できる相転移エンジンも開発できていない現状からすれば絶望的というところでしょか?
さて、こんな状況のボソンジャンプに関して個人の能力をはっきりしておきたいというのは当然の欲求。ランク分けをして管理していこうというのがライセンス制の発端です。
まず、C級ですがこれは1のジャンパー体質であること。まぁ、当たり前といえば当たり前です。A級は1〜4ができる人となるそうです。B級はそれ以外の人を指すのですが現実にはDNA改造で生み出せるのは1と2が精一杯とか。おおざっぱな区切りですね。
ちなみにこれまでのお話はヒサゴプランの見学コースのボツ原稿からの引用ですが・・・本当にこんな話を子供達にするつもりだったのでしょうか?
『姉さん、時間』
はいはい、そろそろ王子様が起きる頃ですものね。
すみません、皆さん、本当はユリカさんがなぜB級ジャンパーなのか解説しようと思ったのですが、今日はもう時間がありませんのでこのぐらいで。
こらラピス、待ちなさい!
−ヒサゴプラン見学コース終点−
「以上、超対称性やら難しい話をしてきました。」
「みんなわかったかな?」
「「「「わかんない!」」」」
ヒサゴンの質問に元気よく答える子供達。このレベルでもわからないのは当たり前である。
「つまりですね、チューリップを使うことによってですね、非常に遠い距離、それこそ地球から火星へ一気に移動できるんですね」
ヒサゴンのマジックで子供達も納得した。
「ただしですね、現在の段階では普通の人は利用できないんですね、これを利用するにはですね・・・」
とたんに歯切れ悪くなるマユミお姉さん。こんな話をP.S.でも子供にするか?
「改造しちゃうんですか?」
「いえ、そこまで露骨なモノじゃなくてですね・・・」
「聞いたことがあるぜ、反人道的とか」
「私に気を使わなくてもいいですよ」
子供達のざわめきに困り果てた彼女にユリカが救いの手を差し出した。
「今の技術ではDNAをいじらないといけないんですね」
「大佐、改造人間?」
「こら!」
姉らしき子供がつい口にした妹を叱った。
「他の人はそうですが、何の改造もしてませんよ。わたしは生まれつきなんです。昔火星に住んでいた人は自然にこんな体になったんですよ。ご飯食べて、お昼寝して、怒って泣いて。みんなと変わらない生活してたの」
ふとユリカは思い出す。今はいなくなったあの人達。優しい旦那様、説明好きなおばさん、コンピュータとお友達の少女。普通の人となにも変わらない、優しい笑顔の持ち主達。
「だから、みんなもジャンパーの人達と仲良くして上げてね」
切ないような、それでいてとびきり優しい笑顔でユリカは諭した。
「「「「は〜い!!」」」」
「あ、それとね。普通の人でも戦艦に乗ればジャンプできますよ。今度ナデシコにのせてあげましょうか?」
「「「「本当、わーい」」」」
「あの、大佐。よろしいんですか?そんな約束しちゃって」
「あははは、大丈夫ですよ。私、艦長さんですし。」
「は、はぁ」
この見学コースを一番楽しんでいたのはユリカかもしれない・・・
−再びナデシコB−
「あ、やっぱり。公式な設計図にはないブロックがありますね」
ハーリーのウインドウの一つに黒く塗りつぶされたアマテラスの設計図が浮かび上がった。
「襲われるなりの理由ってやつか。よし、続けて行ってみよう!」
開いてしまった、パンドラの箱。
数秒後、目まぐるしく現れるデータの渦。それはサブロウタでさえ驚愕する内容であった。
「ボソンジャンプの人体実験・・・?」
「おいおい、正気かよ!」
Dead、Lost、死亡、失敗、ハンコは違えども書かれている事実はモルモットを使用したそれと対して変わりなかった。はなから、殺すことを前提とした実験。死亡率99%がそれを雄弁に語っていた。
『注意、危険!』
途端、警報がなった。オモイカネが相手のホストコンピュータからの自我接触を受けたサインだった。
「ばれたか!」
「オモイカネ、データブロック、相手プログラムは1から5番プロクシに流して、侵入プログラムはバイパス経由に切り替え。」
「何?」
サブロウタの見たもの、それは相手のホストコンピュータから流れてきた自我意識データ、それがウインドウになって無数に展開した。
KARIYU KARIYU KARIYU KARIYU KARIYU KARIYU
KARIYU KARIYU
ただ、それだけを繰り返すかのように。
−アマテラス内−
ただ、ひたすら氾濫しまくる「KARIYU」のウインドウ。
「なんだ!これは!早くなんとかしろ、こんなところ敵に襲われたらどうするつもりだ!」
怒鳴るアズマ准将、さり気なく部屋を辞するヤマザキ。
「こちらでも、回復作業中でして」
「落ち着いて下さい。ウインドウは触れても害はありません」
「落ち着いて行動してください」
そんな人たちの必死の呼びかけにもかかわらず、騒ぎは広がる一方。
「みなさん、落ち着いてください。」
当然、見学コースのユリカの所でもかくの如し。
「あれぇ、ハーリー君ドジったのかな?」
『違いますよ!』
「あや、ハーリー君」
「僕じゃありません、アマテラスのコンピュータ同士の喧嘩です」
「喧嘩?」
「そうなんです。アマテラスには非公式のシステムがあって、そいつが自分の存在をアピールしているというか、誰かに居場所を教えているというか」
「かりゆ?かりゆ・・・」
そうつぶやいているうちにユリカには一つの単語が浮かんだ。
「ゆりか?」
そうとわかればユリカの行動は早かった。
『艦長、どこへ行くんですか、艦長』
「ナデシコに戻ります。エンジン暖めて待っててください」
『え、どうしてです?』
「敵が来ます。最悪、私が到着しない場合は、副長の指示に従って行動、いいわね」
『え!!』
−アマテラスコロニー外周宙域−
「ボース粒子の増大反応!」
アマテラスの管制に衝撃の報告が入る。
『それ』は光を纏って現れた。徐々に実体化しつつある。
「全長8m、全幅12m、機動兵器です」
「相手、識別コードなし、応答ありません」
「天使?」
それは紛れもなく純白の機体、翼を広げた天使のような機動兵器だった。
「さぁ、行きますよ。待っててください。王子様・・・」
それが幽霊ロボット『ホワイト・サレナ=白百合』からの初めての肉声だった。
See you next chapter...
−ポストスプリクト−
さて、問題です。ホワイトサレナのパイロットは誰でしょう?
ヒントはなぜなにナデシコのお姉さんと同一人物です(笑)
ちなみにアバンの台詞も彼女です。
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